第36話 本当に彼は優秀だ。
明原台展望台は、観光資源には乏しいこの町の中では、希少な観光場所だ。
町外れにある明原山を登って少し先にある場所だから、そこまで体力は使わないので、まあまあの量の人が来る。
この場所が愛される理由は、展望台が西に開かれているからで、美しい夕陽を見ることができる。
だからこそ、朝のこの場所に来る人なんて基本的にはいない。だからこそ、私はここを待ち合わせ場所に選んだ。
待ち合わせ時間のきっかり五分前、彼の姿が見えた。
「こんなところに呼び出して、なんのつもりだよ全く」
「仕方ないじゃない。世間的に私は死んでるんだから」
「なら墓場で眠っとけ。ついでに僕の睡眠時間を返せ」
「嫌、私まだ色々楽しみたいもの」
彼は全く驚いたそぶりを見せていない。きっと可能性の一つとして考えていたんだろう。本当に彼は優秀だ。
「久しぶり、浅井」
「ああ、久しぶりだな、星川」
私たちは、久々の邂逅を果たした。
「驚かないのね」
「予想はしていたさ、まあ偶然に近いがな」
少しおどけた風に彼は話す。どう見てもポーズなのに、まるで本心のようにも見える。
「特に最初は何も考えていなかったさ。その二点が繋がったのは君の葬式でだよ」
そこにはなんの伏線も敷いていない。これは本当に偶然のようだ。
「乃田が君の兄に会わせてくれてな、学校での星川の様子を教える代わりに、君の遺体の状況を聞いた」
「なるほどね」
それならば確かに簡単か。
「顔が潰されてる二つの物。ここまでお膳立てされた状況ってなかなかないよな。全く、あとを詰めるのは簡単だった」
吐き捨てるように彼は言う。これは本気の嫌悪が出てきているのだろうか、相当に苛立った声だ。それならば上出来。浅井は私の死の真相を語り始めた。
「遺体の本人確認をするための方法はいくつかある。まずは面通し。でも遺体の顔は潰されているから成立しない。次にやるのは持ち物検査だ。事実君の物が遺体から出たからそんな認識なんだろうよ。そして最後にDNA鑑定。血縁者とのDNAを比較して、本人か調べるやり方。でも君にはこれは通用しない。君は星川家に引き取られた、身寄りのない子供だからね。血縁者はいない。他にもあるのかもしれないが、君は死んだことになっているから、きっとうまく騙せたんだろうね」
どうやら彼はこちらの使った手段を正確に予想できている。なんとも突飛だから考え付かないだろうなと思いつつ、彼ならばたどり着くかもしれないとも思っていた。いずれにせよ、ここまでは予定通り。私は口に浮かべた笑みを崩さないように注意する。
無為な沈黙に耐えきれなかったのか、浅井は再び口を開く。
「全部計画通りか?」
「なんのことよ?」
「とぼけるなよ。君と山部さんの接点ができたのは乃田の仲介でもおかしくない。でもさ、協力関係になれるほどの関係になったのは、井口さんのことがあったからだろ? そして、彼女の事件の要因は君にもある。だからさ、そこから計画していたのかと聞いてるんだよ」
ああ、やっぱり浅井は優秀だ。私は私を睨みつける彼をみて、そう思った。
その目線に、胸が切り刻まれるような痛みを感じた。でも、それももうすぐ終わる。
「そうよ。全て私のせい」
私は決して笑みを崩さない。
「星川、君は……最低だよ」
ついに、その言葉を引き出した。目的は達した。あとはこのまま、悪役として消えればいい、はずだった。
「そんな風に言われたいのかよ、君は」
またしても吐き捨てるように、私を睨みつけたまま、浅井は言った。
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