第34話 奇妙な符合

「それで? まさか思い出話のためだけに呼んだわけではないですよね?」


 それなら弔問の場で事足りる。わざわざ呼び出す意味はない。ところが、


「いや、ある意味思い出話だ」


 と、僕の予想は裏切られた。ここで突っ込む意味はないから、僕はまた沈黙した。祐樹さんは沈黙をあまり作らないタイプのようで、すぐに動いてきた。きっとさっき待っていたのは、雨が降っていたからだろう。


「響、学校でどんな風に過ごしていた?」


「……ひたすらまっすぐでしたよ。まさに猪突猛進」


「言ってくれるね」


 佑樹さんは笑いながら答えた。僕も適当な相槌をうって、話を進めた。


「でもそれが綺麗なんですよ。その姿勢が美しすぎるんです。なんだか泣いてしまいそうなくらいに」


「そっか」


「はい」


 そこでまた少しの沈黙が流れた。


「良かった」


「え?」


 あまりに唐突で、僕は疑問を返してしまう。


「君は響を、しっかりみてくれているんだね」


 違う、彼女が僕をみていてくれたんだ。僕は何も見れてはいなくて、それは、この結果が証明している。


 でも、それを否定するのもおかしい。心の何処かがそう言った。だから、僕はこう答えた。


「親友でしたから」


 厳密には違う。星川は間違いなく友人にはカテゴライズされる。でも、浦山のような、親友の枠ではない。


 親友という言葉が一番近いけれど、それは本質ではなかった。


 佑樹さんはそこを追及することなく、「そうか」とだけ言って、話を進めた。


「俺は響が自殺するわけないと思っている」


 唐突な先制攻撃。静かな寺の境内は、一瞬にして物々しい雰囲気をまとった。


「それはそうですね」


 最後のあの会話から、自殺にはどうしても繋がらない。


「だから俺は、学校で俺の知らないことが起きていると推測した。そこで、だ」


「僕の話を聞きたい、と」


「物分りが良くて助かる」


 それなら、うってつけの道具がある。人生何が起きるかわからないな。と、ふと考えた。


「日記のようなものはあります。持ってきましょうか? 家は近いので持ってきます」


 幸か不幸か、あの日記、というか小説めいた回顧録が役立つ時が来た。


「有り難い。文字媒体の方が覚えやすいからな」


「いえ……あの!」


「なんだ?」


 用件を済ませ、立ち去ろうとした佑樹さんに、僕はどうしても聞きたいことがあった。


 彼らが誠実で、優しいのはわかる。けれど、うやむやにはできない。


「通夜は、営まれましたか?」


 佑樹さんが、初めて自発的な沈黙を持った。僕はさらに並べ立てる。


「僕の知る限り、通夜が営まれたという情報がないんです。もし、近親者のみで営まれたとか、宗教上の問題ならいいんです。でも、営まれていない理由が知りたい」


「……その理由は?」


「あなたと同じです」


 この言葉に、嘘はない。


 きっと星川ならこういう時は、相手をまっすぐ見つめると思い、僕は佑樹さんを見つめた。


 彼は顔を背けることなく、でも少しばかり瞑目して、答えた。


「遺体が、ろくに見せられたもんじゃないからだよ」


「え?」


「響の遺体は、顔が潰れていたんだ」








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