第32話 それだけは、間違いない収穫だ。

 その情報をくれたのは、皮肉にも、部活の現状に興味がない部員の一人だった。


「聞きたいことがあるって聞きましたけど、俺はマネキンについては知らないですよ」


 如何にもぶっきらぼうにそう答えた部員は、気だるげそうに見え、どこか津山先生に似た雰囲気を醸し出していた。


「別にそんなこと知らないし、聞こうともしてない。部活の現状を聞きたいだけだよ」


「そうなんですか」


 男子部員は、全く興味なさげな声を出して、他の部員と同じような、当たり障りないことを口にした。


「で、なんだけど」


 僕は話し終わって、立ち去ろうとした彼に切り出した。


「マネキンのことって何?」


 今日の僕は、細かいことをいちいち気にするようだ。


 その部員がため息をつきながら話したのは、ある事件についてだった。


「すこし前に、演劇部の倉庫にあるマネキンの顔が破壊されていたんですよ。衣装が盗まれていたわけでもないので、逆にみんな不安になって。結局うやむやだったから、どうなってもいたんだろうと思っていたんです。そこに浅井さんが来たから、そのことかなと思っていたんです」


「ありがとう。話してくれて。もういいよ」


 僕がそう言うと、男子部員は部室を出て言 いった。失礼しますと言うその瞬間まで気怠げにで、本当に津山先生に似ていると思った。


 星川が伝えたかったのはこれか。


 少しずつ、背景が見えてきた。


 解決していない問題があるのに、それを伝えない場合、パターンは二つだ。


 一つは、自分たちだけでどうにかできると考えている場合。このケースなら、犯人探しはできるし、見つける算段もあるということだ。しかし、先程の部員の話から、間違いなくそれはない。全てはうやむやになり、犯人は見つかっていないのだから。


 そうなると、考えられるのは二つ目。


 この案件を、山部さんは隠したがっている。少なくとも、積極的にオープンにしたくはないのは明らかだ。


 この件と星川の死が何を意味するか、まだわからないが、彼女を追う足跡を見つけることができた。


 それだけは、間違いない収穫だ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る