第31話 君には選択肢が二つある
「とりあえず、今の現状を聞かせてよ」
演劇部の部室に来た僕は、山部さんに話を聞く。他の部員は、練習のためにホールに向かっているので、部室には僕たち二人しかいない。
「わかった」
山部さんが言うにはこうだ。
演劇部は五年ほど前までは、やたら実績で目立っていたクラブだった。そのため、部員は勝手に入ってきたと言っても過言ではない。しかし、最近ではあまり成果を上げられていない。もっとも、それでも部員の数はある程度ある。しかし、新入部員の数は少ない。それは部活の空気が悪いかららしい。
よく言えばアットホームな、悪く言うとふやけきった雰囲気。それが今、蔓延しているのだ、と。
この現状を変えるべく、立ち上がったのが、二年前、当時部長だった人が率いる一派で、そこには山部さんもいた。
その部長は、持ち前のカリスマ性で改革を進め、しかしそれは道半ばに終わった。その部長が、昨年卒業してしまったからだ。
あとを継いだのが山部さんだ、しかし、彼女の努力は、結果につながらず、やる気のない部員は、消しきれなかった。それが、演劇部の現状なのだ——そう話して、山部さんは口を閉じた。
「なるほどね」
なんとなくだが、状況が見えてきた。
しかし、まだ足りない。
「ちょっと実地調査をしてみたい。部員の声を聞いてみたいんだ」
「了解。じゃあ、暇ができた奴の何人か呼ぶね」
山部さんは部室から出て行った。
今のうちに、考えられることは考えておこう。
星川はこの依頼を認知していたのは間違いない。ぼくに連絡をよこしてきたのだから、それは間違いないだろう。
しかし、それをわざわざ教える意味がない。表面だけ見ていてはダメだ。
この依頼自体に裏があるのか、それを考え始めた頃に、何人かの部員がやってきた。
「なんだってみんなやる気を出さないんですか! 前部長があれだけ努力して、山部先輩も頑張ってるのに、何がいけないんですか!」
そう言う部員もいれば、
「所詮部活じゃないですか。それは楽しむためのもの。後々、人生の仕事にするならまだしも、それができるのは一握り。何の意味があるんですか」
そう言う部員もいた。
だが、これらのような意見がある部員は少なく、ほとんどは当たり障りのない事を言う。
つまりは、どうでもいいと考えている。
「さて、どうしたものかな」
あらかた全員の話を聞き終え、僕はまた、山部さんと二人っきりになった。
「何かつかめた?」
「まあ、一応ね」
本当に、ぼんやりとしか見えていないが、新入部員が増えないわけが、何となく見えた。
「この部活はね、中途半端なんだよ」
実のところ、やる気がある部員は四割がいいところで、あとはそうでもない。
「だからさ、やる気のある人も、のんびり楽しみたい人も入りにくいんだよ。ここは」
少し頭を使えばわかる事じゃないかとも思うが、池の魚は池の形を知ることは出来ないとも言うし、仕方ないのかもしれない。
「山部さん、君には選択肢が二つある。やる気のある部員だけ残し、あとを切り捨てるか、全てを内包して、のんびりとした雰囲気でやるか」
どちらにしても、彼女にとっては地獄だ。事実、このことを話した瞬間に、彼女の顔は苦悶に変わった。
「まあ、決めたら教えてよ。じゃあ、もういくね」
今のところ、もうここに用はない。頼まれたことには、現時点では出来るだけ応えたし、思わぬ収穫もあった。
なぜ星川が、この案件に関し言及したのかに繋がる情報を、僕は手にしたのだ。
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