第30話 本当に君は、僕のことを考えてくれているんだね
「なんだって受けちまったんだろうな」
山部さんからの依頼を受けてしまって、彼女と一緒に、教室に戻った後に、そんなことを呟いた。
今まで受けていたものとは、明らかに毛色が違う。正直、自分でもよくわからないが、こんな生活を送っていたら、いつか過労で倒れるのは明白だ。
とりあえず、浦山にでも聞いてみるか、そう考えたら、不意に、まだ学校に来ていない彼女の顔が浮かんだ。
井口さんは、怪我も治り、少しずつではあるけど、学校に来ている。
乃田がまだ一度も来ていない。
全てが終わり、安泰となった学校に来てくれると思っていたのに、このタイミングでの星川の死だ。仕方ないといえば仕方ない。
放課後にでも浦山に連絡がなかったかどうか、話を聞きに行くか。
そう考えて、浦山に放課後の予定を聞こうとした、次の瞬間。
「なあ、ちょっといいか?」
名前も覚えていない男子生徒のその発言で、僕はに対する質問ぜめの火蓋が切って落とされた。
その質問ぜめは、休み時間が終わり、授業が始まると中断されたが、次の休み時間にはまた始まり、最終的に放課後まで、僕は動くことができず、浦山にも聞けずじまいだった。
「予定、ずいぶん狂ったな」
最近一人で呟くことが増えた気がする。理由は簡単だ。その呟きに、返答してくれるやつがいなくなったからだ。
そこで不意に、頰を何かが伝って、やっと僕は、失ったものの大きさを認識した。
「とりあえず、メールするか」
直接会わないと話せないわけではない。僕はスマホを取り出して、浦山に連絡しようとした。
そして、それに気づいた。
非通知からの留守電が一つ入っていた。時刻は朝の四時半。
『留守番電話が一件あります。再生しますか?』
迷わずイエスだ。
そこから流れてきたのは、
「おはよう浅井。元気?」
僕が失ってしまったあの声だった。
ここからのことは、あの記録に書いていない。
だからあの記録は、虚飾はないけれど、言い落としはあるものになっている。
どうして、この時間にかけてきているんだ。どうして、わざわざ非通知なんだ。でも、そんなことより先に、口が動いていた。相手は留守電だから、返答なんて来るわけないのに。
「まあまあ元気だよ。君は?」
「これから死ぬかもしれないって人にどんな物言いよ」
読まれていたのか、会話が成立してしまった。本当に君は、僕のことを考えてくれている。
「それで? 何の用なんだ?」
その問いかけが終わると同時に、星川は話し始めた。声色から、笑っているのが目に浮かぶ。
「単純に謝罪よ。山部さんから依頼は来た?」
「ああ、ある意味あれは面倒だ」
「本当は私が受けるはずだったのよ。恩返しとしてね」
なるほど、その構図ならまだ理解できる。
「ぼくにできると思う?」
「出来るわよ。貴方ならそこにたどり着ける」
「本当に?」
「本当よ。私が保証する」
それじゃあね。
うん、またね。
そう交わし合って、留守電は切れた。
全く、君は本当に、ぼくのことをよく分かってるよ。
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