第19話 ようやく、終わる

「星川、決め役は君のはずだろ? 必要なことは連絡したじゃないか」


 どうやらこの展開は、浅井にとって予定外のようだ。


「え? 何のこと?」


「だからさ……まぁいい。あとはやる」


 浅井は腹を括ったらしく、私の方を見た。


「山部さん、君が犯行に及ばない最後の理由は、教室に入れないことだよね」


「そうだけど」


「つまり鍵が、唯一の障害な訳だ……ところで山部さん、そこのバカが少し前に引き起こした騒動、知ってる?」


 やめて……そっちに行かないで……!


 私はもう、念じることしかできない。


 浅井は私の返答を待つことなく、非情に話を進める。


「知らないのか、知っていて答えないのかは聞かないよ。知らないことにしておく。星川がこの前、防災訓練の時に鍵締めを担当した子に、話を聞いていたんだ。たしかに星川はバカだし強引だけど、相手の子の反応が凄くてね。何かあるのかと思って聞いてみたんだ。そしたらさ、普通に聞いただけなのにものすごく避けられてね。これは何かあると考えたんだ」


 あの事件は想定外だった。でも、星川が派手に動いてくれたおかげでカムフラージュ出来たと思ったのに……。


 藪をつついて蛇を出したか。私はそう確信していた。


「話してくれないなら考えるしかない。僕らのクラスは、三階にあるから、いくら窓から入ろうとしても、中学生には無理だろうね。となると侵入経路はやはり教室の扉だ。うちの学校の扉は引き戸だから、もしかしたら、鍵がかかっていても、手を差し込んで開けれるんじゃないかとも考えたけどそれは無理だった。まあ仮にできても閉めるのが難しいけどね。山部さんとくだんの彼女が訓練中に合流した可能性も考えたけど、それはそれで不自然だ。となると、やはり正攻法だよ」


 最初から、全く淀みなく、用意してきたセリフを喋るようにはなす浅井。その言葉が不意に途切れて、浅井は私を指差した。


「君、合鍵作ったでしょ」


 そう、一番単純で、明確な答え。それがこれだ。


「となるとあとは人海戦術だ。全く、このせいで僕は、絶交していた親友に頭を下げる羽目になるし、その彼女まで呼び出す羽目になったよ」


 浦山と葵か。浅井と浦山の関係は切れていたのか。それだと、春ちゃんの懸念は外れていたのか。


 浅井はそこで肩をすくめた。気づいたが彼はよく肩をすくめる。癖なのかもしれない。


「まあともかく、僕ら三人はこの三日間、町中の鍵屋を当たっていた。まあまあ時間がかかったよ。実際、目撃証言がとれたのは、ほんの三十分前だしね。その鍵屋は、件の彼女ともう一人、鍵の写しに来たと言ってたよ。たまたま君の写真があったからさ、見せてみたら大当たり。一緒にいたのは君だった。全く、たまたま当たりを引いただけだけど、星川も働くもんだな」


 浅井は腕を組んで、ふんふんと頷いている。


「さて……ここまでの話に反論、異論があるなら受け付けるけど、どう?」


 それを聞いて、私の中には、なぜ安堵が生まれていた。ようやく、終われる。そんな風な安堵が生まれていた。


 私は息を吸い込む。


「そう、私が犯人よ。煮るなり焼くなり好きにしたら」



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