第17話 そして舞台の幕は上がる

 机の中に手紙が入っていた場合、内容は二つのうちのどちらかだと、私、山部涼は気づいている。


 一つ目は告白系の手紙。だいたい同じような文言だけど、たまに少しいいかなと思う人もいて、そういう人には会ってみる。


 二つ目は呼び出し系の手紙。これも告白が大半だけど、たまには個人的相談とか、釘を刺しにくるのもある。


 そして最近は、私を調べてくる人の手紙が多い。


「今日の放課後、教室に残るように」


 少し丸みを帯びたその字は、確か浅井の文字だったはず。


 この前はオバさんの件で色々聞かれたから、まさか告白ということはないだろう。


 今日は何を聞いてくるのだろう。


 少しの恐怖を、スリルとして楽しみながら、私は放課後を待った。


 バレるはずがない。と思いつつも、どこかでバレてほしい、そう願いながら。


「涼ちゃんまたね!」


「春ちゃんも、気をつけて」


 放課後、私は春ちゃんたちとわかれて、一人、教室にいた。


 浅井の姿を含め、私以外誰もいない。


 何かあったのだろうか。


 不安になり始めた頃、教室の後ろの扉が開かれた。


 浅井かと思い、見てみたが。


 そこにいたのは星川だった。


「浅川なら来ないよ。決め役は譲るってさ」


 決め役、つまり彼らは、答えにたどり着いたのか。


「へぇー。何を聞かせてくれるの?」


 胸の内に渦巻き始めた恐怖を飲み込み、私は気取った風を装う。


「あの訓練の日、盗難をするタイミングは二回ある。訓練が始まる直前と、訓練中よ。前者ならば、教室を一番最後に出た井口さんが怪しいし、後者なら、あなたが怪しい」


 星川は、入り口から歩き、こちらに向かいながら言う。


「そうね。でも、私に犯行は不可能」


「ええ。だから井口さんが犯人。それがみんなが出した結論。でも、おかしいと思わない?」


「どこが? 井口さんが犯人で問題ないでしょ?」


「一見すればそう。でも考えてみて」


 星川は私の方を見つめてくる。澄んだ瞳が痛くて、私は目をそらした。それをみて、彼女は私を鼻で笑ったらしく、ふんという音がした。


「普通ね、最後に出たからといって、みんなから目撃されないのはほんの一瞬よ。そりゃあ、井口さんがプロの泥棒とかなら別だけどさ、そんなこともないでしよ。なら不自然よ。それより私は、あなたがなんらかの手段で、教室に戻ったと考える」


 ここで反論できなければ負けだ。私はそう考えて、顔を上げて星川を見た。


「どうやって? 私が変なことをしたって目撃でもあったの?」


 星川は首を横に振る。


「いいえ、トイレについていった津山先生も、そんなことはないって言ってるし、他の人からの目撃もない」


「じゃあただの言いがかりじゃない、それ」


 こんな返答が通るとは思わない。事実星川は、私に向かって口元を歪めて言った。


「そうね。なんの根拠もないしね」


「なら……」


「でもね、私はあなたが犯行に及べたことを説明できるの」


 その時、やっと星川の口元の歪みの意味がわかった。


 これは確信に満ちた笑みというやつだと。


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