第16話 布石を打つ


「なるほどな……」


 と、僕の目の前には、顎に手を当て、ふむふむと頷く津山先生がいる。


「先生、山部さんは列を離れたんですか?」


「ああ、俺が付き添った。校長のお話の途中ぐらいに出たはずだ」


 あのただ長ったらしい、テレビコメンテーターの二番煎じのどこがありがたいんだ。


「どこに行ったんですか?」


「トイレだ。校舎一階の」


 どうやら、集めた情報に間違いはないらしい。


「不審なことはありましたか?」


「いや、特にはない。」


「そうですか……」


 三月学園の窓は基本的にははめ殺し。もちろんトイレも例外ではない。


 星川が昨日確かめるまでもなく、山部さんには犯行はできないという証明がなされている。


 じゃあ誰が? という話になる。しかし訓練中に列を外れたのは山部さんだけだ。


 彼女に無理なら、犯人は消去法で井口さんになる。そのはずがないにもかかわらず。


 真実はどこにあるんだ。


 そんな風に悩んでいるときに、僕の脳みそは細かいところに目がいくようで、


「朝から教員室が騒がしいですが、何かあったんですか?」


 日頃、僕らに対して走るなという先生たちが、僕がここに来るときに、走っていたためにこちらにぶつかってしまった。かなり余裕がないのがわかった。


 大丈夫かな、と思いながら、ここに来てみたら、中も騒がしいのだ。


「ああ、これには訳があってな」


 津山先生は腕を組んで顔をしかめた。


「実は用具倉庫……学校の機材とかを入れているところから紛失があってな。さらに今朝には、学校の機材の一部が、メーカーからリコールが出てる物であったり、不具合がある製品であることがわかって、対応しているんだ。」


「そうだったんですか……」


 それなら仕方ない、そう思ったその時だった。


 頭の片隅に、なにかが引っかかる。なんだ?なにが引っかかっている?


 そして、


 不意に理解した。


「先生、スマホ使っていいですか?」


 この際仕方ない。


「あ、ああ」


 若干困惑気味の返答だったが、了承は取れた。僕は、訓練の日の朝のニュースをみる。


 やっぱり、あったか。


 星川の言う事は正しかった。僕は危険な状況にならないと力が出ないらしい。


 逆には、こういう時には力が出る。小さなことにも気づくのだろう。


 津山先生に幾つかのことを確認して、挨拶をしたあと、僕は教員室を出た。ただの確認のつもりが、思わぬ収穫だった。


 その日、僕は星川に頼み事をした。


「三日後、山部さんを教室に呼び出しておいて」


「わかった。あなたはそれまで何をしているの?」


「いくつか確認したいことがあるんだ」


 最終局面へ、物語は着実に進んでいる。

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