第14話 discussion
「まずは筋の通る説明を考えてみましょう」
そんな風に星川は切り出してきた。
「そうだな。井口さんが犯人というのは、すこし無理がある」
星川は頷いた。
「その通り。井口さんは自分から盗む人ではないし、自分の本性を隠すのが得意そうな人には見えない。それに、彼女に恨みを抱くような人も基本的にはいない。だからこの説は無理がある」
「だから、第三の選択肢が必要だ」
僕は少しの間、考える。星川はこの話を乃田の一件につなげようとしている。
なら、正解はひとつしかないだろう。
「井川さんの一件は、乃田のグループ内の、反乃田派の起こした、憂さ晴らしっ
てこと?」
「私はそう思う」
構図はこうだ。
乃田による、急激な体制変化により、過激派たちも、そう簡単に動けなくなった。
日頃の鬱憤を晴らすかのように、毎日のように、みんなをいじめていた過激派達は、いじめを行う理由を求めたのだろう。
だから、井川さんが狙われた。事件に最も楽に巻き込めそうだからだろう。
「でもね、その仮説を成立させるには、誰にも気付かれずに、井口さんの机の中に、財布を入れなきゃいけない」
訓練前に、財布がないという騒ぎはなかった。だから、財布が盗まれたのは、訓練中。
さらに、教室に鍵がかけられた時、教室には、誰もいなかったのだから、最後まで残って、盗むことはできない。
「訓練が始まった時には、クラス全員が列の中にいたのか?」
「ええ」
なら、訓練に向かう際に、トイレに行ったと見せかけて、教室に戻る線は消えた。
「でもね」と、星川は続ける。
「訓練中に、列から外れた人はいた」
明日その人に会いに行く。そう言って、彼女は僕の前から、唐突に消えた。
なぜ星川はあんな情報を僕に? 必死にその意図を読もうとする。
でも、意図が読めても、読めなくても、明日は学校に行くしかない。
————星川が道を踏み外さないように。
そう指示を出した教師に逆らうことを、クラス委員の僕が、率先してやったなんて、あまりにバツが悪い。
つまり、学校に行くという選択肢は、僕の価値観のレールに沿っていて、行かないという選択肢が、沿わなくなった。
これを計算してやっていたなら、恐ろしさすら感じる。
だから僕は、学校に行くことにした。
親のいない一五分ほどだが、それは重要なものになった。
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