第9話 僕にその役目は荷が重い

 こうして、星川は調査をする権利を得た。


 「じゃあまずは今後の方針を決めましょ」


 帰り道、僕の家の近所にある公園のベンチに座り、僕らは話し出した。


 「許可はもらったけど、あの時先生が言ったのは正論だからなぁ」


 僕はあの時思ったことを言う。津山先生と星川は、いつも違う一面の真実を主張する。


 二人とも黙って、しばらくしてからだろうか。


 「そうだ!」


 いきなり、星川は立ち上がり、叫んだ。


 「井口さんの家に行けばいいんだ!」


 「えっ?」


 どうしてそうなる?


 「それで、井口さんから許可を得れば、なんの問題もないよ!」


 あっ、そういうことですか。


 「なるほどね。じゃあ、いつ行く?」


 「え、早いほうがいいじゃん。明日でいいよね」


 「うん、午後からならいいよね」


 明日は土曜日。授業が午前中で終わり、僕は帰宅部だし、彼女も帰宅部のはずだから、午後からならいけると踏んでいた。


 「え、朝から行くんじゃないの?」


 「はあっ!? それはないだろ」


 「どうして? だって、先生を味方につけたからそのぐらいごまかせるよね」


 「はあっ!?」


 それは、確かにできるかもしれないけどな、まずいだろ、倫理的に。僕はそう考えたけど、止めても聞かなそうなので、僕は結局は頷いた。それでも、多分無理だよな、とは考えていた。


 どの道僕は彼女についていかなければいけないのだから、反論するだけエネルギーの無駄。それは他の人に任せよう。


————————————————————


 教員室を出るとき、僕は先生に呼び止められた。


 「浅井、少しいいか?」


 「はい」


 断る理由はない。星川は下駄箱に行くと言って、先に教員室を出た。


 「突然だが、星川の調査に付き合っつやってくれ」


 「どうしてですか?」


 「理由はわかるんじゃないか?  一歩引いて見ているお前なら」


 確かに、思い当たるものは一つだけある。正解かどうかは全くわからないが。


 「星川のやり方は、みんなを傷つける可能性があります。ストッパーになれ、という事ですね」


 あいつのやり方は正しいのだ、一面では。

 きっと、端的に言うと、自分の正義を貫くためならやり方を選ばない。それが星川なのだろう。だから大枠が正しくても、犠牲を生みうる。


 「そうだ」


 「でも、僕には何もできませんよ」


 「とりあえず、近くにいればいい。それだけで、考えさせることができるかもしれんからな」


 「そうですか。でもそれは僕には不釣り合いですよ。まだ浦山とかの方がマシに動ける」


このお役目は荷が重い。


 「確かに、動くだけならな。でも、あいつと一緒に突っ走りつつも、止めれる奴が必要だ」


 それが僕? そんなふうに評価されていると知り、思わず笑う。


 「先生、それは過大評価ですよ」


 僕は、彼女の隣に立つには、あまりに不釣り合いな、ただの傍観者だ。


 「そうか……」


 先生はそこで、何かを考えるかのように目を瞑った。そして、その目を開き、僕に向けた。


 「なら、お前のクラスの担任として指示する。星川の調査に付き合え。星川が道を踏み外すことのないように」


 「それは、教師の仕事では?」


 「忘れたのか? 俺は仕事をしたくないんだよ」


 そう言って、津山先生は笑った。よく笑う人だなと思った。

 津山先生は僕のクラスの担任で、僕は学級委員。拒否権はないらしい。せめてもの抵抗として、僕は呆れたように笑って、仕方ないですね。と肩をすくめた。


————————————————————


 こんな事情により、僕は星川に付き合わなければいけない。全く不本意だし、何もできないと知りつつも指示には従わなければいけない。


 「じゃあ、また明日」


 「うん、また明日」


 その日、僕らは、明日会う約束をして、別れた。

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