第7話 ちょっとした幕間


 井口さんは教員室に連行された。確認しに行った廊下トンビたち(廊下トンビとは、好きな本の中で情報屋を意味する言葉である)によると、井川さんは否認し続けていたらしい。その後、海外出張をしている父親の代わりに母親が呼び出され、次に被害者家族が呼びだされた。しかし、かなり早くに彼らは解放されたようだった。

 最終的に、彼女に下ったのは、二ヶ月の停学処分。

 さらにその後、その処分は解除された。これに文句を言った人はいない。

 何があったか、公式書類にはここまでしかない。廊下トンビたちは騒いだが、彼らにはわからない。

 きっと真実は、この本だけが書いている。

 では、始めようか。正義の味方の物語を。

――――――――――――――――――――

 事件の翌日。僕と浦山は、いつも通り他愛無い話をしていた。乃田は学校にいたし、停学の井川さんは、学校にいない。私立だからなのか、彼女の机の上に、花瓶があったりはしない。

 しかし、予想外のことはある。今日の朝食が、パンではなく、和食だったり、星川が、いつもの時間にいなかったり。

 不意に廊下から声がした。

 「話だけでいいから、ねぇ!」

 「しつこいよ!」

 かなり険悪だ。おまけに、1人は聞き覚えのある声に似ている。

 問題を拡大させたくなくて、僕は廊下に出る。

 そこには、見慣れ始めた委員の姿だけがあって、会話の相手はいなかった。

 「何やってんだ星川。」

 「浅井……変なとこ見せたね。」

 「質問に答えろ。何してた?」

 「昨日のことを聞いてたの。あの子は教室の鍵締めを担当していたから」

 防災訓練とはいえ、盗難防止のため、鍵を閉める。

 基本は先生が行うが、たまに生徒が行うことがあって、僕も経験したことがある。

 「何を聞いたんだ?」

 「昨日、鍵を閉めた時に、教室には誰もいなかったかどうかを」

 「そうか」

 僕はそれだけを言って、周りを見た。人だかりが出来ている。

 「無茶するな、お前がなんかに巻き込まれると、面倒だ」

 僕はそう言った。自分のための、ただのポーズだ。

 でも僕はもうこの時、事件に関わっていたんだろう。物事は僕の目論見とは違う方向へ向かう。

 だからこそ僕は、この非公式記録を始められるのだろうな。

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