どこにも繋がらないただの夢

 今は春だというのに、雪が降る周りの風景と、それでいて、胸を突き刺す寒さの痛みがない空気でわかった。これは夢だ。

 とても昔、まだいじめられてもいなくて、無邪気な子供でいられた頃の夢だ。


 公園に、一匹の犬がいた。ダンボールの中に入れられた子犬。捨てられたのだろう。

 マフラーで口元を覆っていた僕はそれをみて、家に戻った。家に連れて帰ろうと思ったからだ。でも、我が家であるアパートは、ペット禁止だったし、金銭的余裕もなかった。30分ぐらいだろうか、議論をし続けて、でも、幼稚園児の主張なんて、たかが知れてて、僕はなんの成果もなく、その子犬のところに戻って、泣いた。

 大声をだして泣いた。涙は止まることを知らないかのように流れ続けた。

「どうして、あなたは泣いているの?」

 不意に、そんな声がする。今の僕は、振り返らなくても、誰だかわかる。この夢は、何度も見た。でもこれは、幼い僕の記憶だ。だから僕は振り返る。

 そこには、赤いリボンで、長髪を後ろに束ねた、1人の女の子がいた。当時の僕と同じぐらいの子で、僕と同じようにマフラーをしている。ただ、色が違った。赤と青。


「だって、悲しいじゃないか」


「悲しいのは、捨てられた犬よ。自分の居場所がなくなって、どうしようもない、この犬。あなたじゃない」


 なんとなくムカついて、ムキになって言った。


「僕はこいつのために、全力を尽くしたんだ! でも、ダメだったんだよ! なら、せめて悲しむしかないだろ!」


 今思えば、僕は珍しく、心底怒っていたんだと思う。だからこそ、女の子の次の言葉には驚いた。


「そう。なら、あなたは悲しんでいい。自分の全力を尽くしたのだから」


「どういうこと?」


 彼女は僕の質問には答えずに、自分の話をする。


「問題はただ眺めている連中よ。彼らは、問題に関わらずに、涙を流す。ただ眺めるだけなら、涙を流す前に行動よ」


 そう言って彼女は犬を抱いて、どこかに行く。

 夢はいつもそこで終わる。

 これはただの夢だ。僕のスタンスを決めた、でも、どこにも繋がらない、ただの夢だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る