第2話 二度目の邂逅
僕らが初めて会ってから、一週間ほどして入学式を迎えた。
基本的に僕は一人で学校に行く。一緒に行く友達なんていないし、僕は静かな日々が好みだから、問題はない。
ただ一人、僕の日常を壊しにくる奴がいる。
「おっす浅井! 新学期もよろしく!」
ドスはきいていないけど、よく通る声と共に、突如として肩に来た衝撃と共に、自分の後ろから声がした。
「浦山ぁ、話しかける時は、もう少し落ち着けと言ったよな!」
よろめいた反動からか、声がきつくなる。しかし、そんなことは気にも留めずに彼は
「悪い悪い」と言う。相変わらず度量の広いやつだ。
こいつは浦山正之という。運動ができて、明るく、勉強は苦手。絵に描いたようなスポーツ万能のいい奴。根暗で、勉強ぐらいしか能がない僕の真逆の存在だ。
普通なら関わり合いなんてない僕らが、なぜ出会ったのか、それは幼稚園の頃にさかのぼる。
幼稚園の頃、僕は世界を諦めていた。
何かすごいことのように見えるが、実際には自分の無力を自覚して、傍観者であることを決め込んでいただけだというのは、今になってからの自己評価としてある。
だから他の子供達と相容れず、集団から放逐された。
つまり、いじめられていたのだ。
君が思い浮かべる、あらゆるオーソドックスないじめ。多分僕はだいたい経験しているよ、それも幼稚園児の時に。
どこで覚えたのかわからないが、彼らはそういうことをしていて、当時の僕は両親とか大人を頼らなかった。
ただでさえ無力な自分が、さらに無力に見られるとか、無力な自分に大人は動かせないとか考えていたのだろう。
今となっては浅ましい考えだけど、この考えのおかげで、浦山と出会えたとも言える。
ある夏の日。同じ組の男子に呼び出され、家の近所にある公園に向かった。そこで、僕は水をかけられたのだ。それも続けざまに、何回も。
相手方も知識が中途半端だったのだろう、水を掛けるのに有効なのは冬場だ。夏場じゃない。
でもさっきのような考え方のせいで、僕は水をかけられたことを親に言わなかったから、夏場でも冬場でも同じだった。
水をかけられ五分ぐらいして、夏場とはいえ濡れすぎだと思い出したその時
「大丈夫か!」
声が、聞こえた。
その方を見るとおなじぐらいの年をした一人の男の子がいた。
彼は僕が自分の方を向いたのを見て、
「正義の味方、参上!」と言って、駆けてきた。
最初は、特撮番組に憧れたバカだと思った。でも彼は地元の子供のなかでは有名で、発言力があったのだ。
だから、僕をいじめていた奴らはいなくなり、その後、新たに増えることもなかった。
小学生になって、三月学園に、入学した時、浦山とクラスが一緒だったのは、完全な偶然だ。
それから、事あるごとに絡んできて、僕の静かな日々を邪魔する。なお、小学校以来、クラスが違ったことはない。腐れ縁というやつだ。
「また、クラス一緒ならいいな!」
そう言う浦山に、
「腐れ縁の継続はごめんだな」
と僕が返して、二人で笑うのは、もう毎年の儀式だ。
だからもちろん今年もやった。創立されてから一度しか建て替えられていない古い校舎に入って、クラスが一緒だったのを確認しても、特に驚かなかった。
しかし、他に驚くべきことはあった。
新しい教室に入って、周りを見回して見た。まだ人はまばらだったが、何人かの新しいクラスメートはいた。
僕の前に教室に入っていた浦山は、もう他の友人と話している。
僕らのクラスは、廊下側から出席番号順に座る。だから、僕は大体、一番前の教室の扉の前だ。
今年は前二人が赤野、明野だったから、三年ぶりに一番前を回避したが、驚いたのは、そこじゃない。
一番後ろ、窓際の席に、人形のような無表情で、読書をしている、ファストフード店での女の子がいたのだ。
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