第5話 東尋坊

 芦原温泉駅に着いてから、バスに乗って東尋坊へ向かう予定だったが、例の一件があるため、予定変更。窓口へ向かった。

 駅員さんは、丁寧に対応してくれた。まず、当初乗る予定だった特急と新幹線の切符を払い戻す。ここはスムーズに終わった。次に、予定変更をしたルートで切符を購入する。ここで問題が生じた。乗車予定の列車が、全席指定席なのだ。1日1本しか走っていない。すでに運転日当日。つまり、満席になっている可能性が極めて高い。ダメ元で聞いてみる。駅員さんが、パソコンと向き合う。

「んー、満席ですね、あ、待ってください」

見守る。ダメだったら夜行バスか。

「2席だけ空席がありました。どうしますか?」

即答で乗ります、と言った。お金を払い、切符をもらう。お礼を言い、駅を出た。一件落着。だが、新たな問題が生じた。

 窓口で諸手続きをしているうちに、かなり時間が経っていた。乗る予定のバスは、とうに発車している。次のバスは30分後。日没前に東尋坊まで辿り着けるか。

 どこかレトロな雰囲気を漂わせたバスが僕らを乗せて、発車した。のどかな街並みを、ゆっくり走る。このバスは、目的地東尋坊までは行かない。三国観光ホテル前で乗り換えだ。乗客は、僕と友人しかいなかった。

 バスを降り、次のバスを待つ。しばらく時間がある。見ると、成田山の分社があった。特に意味はないが、参詣した。次のバスまで、あと20分。スマホの気象情報を見た。まだ、穏やかな晴天で、台風が来るなど感じられないが、それでも、台風は確実に接近している。明日には近畿、北陸を直撃すると見られる。調べていたら、バスが来た。乗客は僕と友人の2人。途中でおじいさんがのり、3人。だがおじいさんは僕らが降りる前に降車した。

 ついに海が見えた。すでに空が赤くなり始めている。夕日と船を写真に収める。バスは山を登る。そしてついに、東尋坊へ。

 バスを降りた。まだ日は沈んでない。写真スポットまでは、少し歩かなければならない。日が落ちる前に辿り着きたい。なんとか着いた。波が岩に砕ける音がした。安全柵などは無い。若干の恐怖心を感じながら、一歩ずつ前へ。心地よい風と、夕日が沈む東尋坊。写真を撮り、自分の目にも焼き付けた。先ほどまで全部見えていた太陽は、あっという間にその姿を消した。徐々に暗くなっていく。ここにいたい、と思いながらも、福井駅に行かねば、いよいよ帰れなくなってしまう。再びバスに乗った。乗客は、僕と、友人と、外国人観光客の4人。駅に着いた。ここから、福井まで電車で行く。単線ホームに止まる車両。ワンマン運転らしい。ドアは先頭の1箇所のみ開いている。車内には、備え付けの扇風機が回っていた。恐竜博物館の広告。今度こそは行こう、そう思った。

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