全員まとめて壺にぶち込まれる羽目に
「抵抗するな、さっさと歩け」
兵士たちに剣やら槍やらを突きつけられながら、俺たちは連行されていく。
俺たちというのは、俺とネメとヴェイラと、先にここに来ていた勇者サマ御一行だ。
コロナはというと、俺の指示通り、全力で金属ゴーレムを演じている。
この世界の常識的に、ゴーレムを捕まえて牢屋にぶち込むなんてことはしないようだ。
このまま放っておいてもいいが……念のため釘を刺しておこう。
「ちょっといいか。その金属ゴーレムなんだが、基本俺の指示がないと動かないが、身の危険を感じると『自己防衛プロトコル』が起動して俺でも止められなくなる。何もせずに置いておくのがお互いのためだと思うぜ」
「なっ!? お、脅しのつもりかぁ!?」
「親切のつもりなんだけどな……。まあいい。コロナ、バルコニーで待機だ」
「了解シマシタ」
俺の『命令』を聞きつけたコロナは、周りの兵士など見えていないかのように一直線にズンズン歩いていき、バルコニーに出たところで唐突に立ち止まった。
うん、実にロボロボしい動きだ。
さて、後はおとなしく牢屋にでもぶち込まれるか。無駄にケガとかしたくないしな。
連行された俺たちを待ち構えていたのは、石壁と鉄格子の牢屋──ではなく、黒光りする壺を持った、いかにも魔女っぽい姿の老婆だった。
「ヒッヒッヒ……たかだか数人に『壺』を使えなどと言われた時には、ついに
……もしかして、この壺に俺たちをまとめてぶち込むつもりだろうか。人間が6人どころか、頭が入るかどうかってくらいの大きさしかないんだが。
この場の他の人間も、ほとんどが俺と同じことを思ったようだ。だが――
「な、なぜ、そんなものがここに……!?」
うわずった声を上げたのは、俺の横にいたヴェイラだった。
それを聞いた老婆が嬉しそうな声を上げる。
「ホホッ、若いのにこの『壺』の恐ろしさが分かるとはね! その制服は魔術学院だねえ? あそこにもまともな魔術師がいたってことかねぇ」
「ヴェイラ、あの壺について知ってるの?」
勇者サマが、全員を代表するように尋ねる。
訊かれたヴェイラは、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「……あれは、『空間歪曲の壺』。あの壺の中では空間が歪んでいて――分かりやすく言えば、閉じ込めた人間を砂粒以下の大きさに変えてしまう」
……入れた人間を砂粒以下に小さくする、か。
聞いただけだとそんなにやばそうな感じはしないが。
すると、老婆がキヒヒと笑った。
「そのとおり! 壺の厚みはそのままに、入れた人間だけが小さくなるのさ! つまり、お前たちは岩盤に閉じ込められたノミになるのさ!!」
岩盤に閉じ込められたノミ……ねえ。いまいちヤバさがピンとこない。
ネメはもちろんのこと、勇者サマも女戦士マルビナももう一人のお供の女神官も、いまいちよく分かってない顔をしている。
そんな中でヴェイラただ一人が膝から崩れ落ちて「終わった……」とでも言いそうな顔をしている。
「そんなにヤバいか?」
隣にいたマルビナに聞いてみると、
「でかくなっても壺は壺、割れぬことはないと思うのだが……」
まあこんな調子である。
それに、最悪どうにもならなかったら俺が掘ればいいしな。
そういうわけで、俺たちは無抵抗のまま壺にしまわれることにした。
「キッヒッヒ、中でせいぜいあがくがいいわい! 『壺よ、飲み込め』!」
壺の口が俺たちに向けられる。その中の黒々とした闇が急速に大きくなり──
――直後、俺たちは闇の中を真っ逆さまに落ちていた。
気が付くと、俺は見渡す限りの闇の中にいた。
どうやらあの老婆はさっさと壺にフタをしてしまったようで、どちらが上かも分からないくらいだ。
……さて、何はともあれ合流しないとな。
勇者パーティのことは勇者サマが何とかするだろうから、俺はまずネメを探さないとな。
「ネメー! いるかー!」
が、返事は予想外に近かった。
「ここだよ」
声はすぐ隣からだった。
思わぬ近さで飛び退きそうになるのをなんとかこらえながら、声が聞こえたあたりに顔を向ける。
……うん、全然見えないがここにネメがいるらしい。
「ネメは、俺が見えるのか?」
「うん、ひかってるから、みやすいよ」
「……光ってる?」
俺には分からない暗殺者的な専門用語かとも思ったが、そこでふと思い出し、そして背中の荷物に手を伸ばす。
ぼうっと淡い青色に光る、俺の荷物袋。その中にはボロ布に包んだ伝説の聖剣が入っている。
普段は全然気付かないくらいのささやかな光だが、流石にここまで暗いと普通に見える程度には光っている。これだけ光っていればネメには十分すぎるくらいか。
……そういやこの剣も渡さないとな。というか、勇者サマ御一行も探さないといけないんだった。
「ネメ、他の人たちは?」
「あっちにいるよ」
……ネメはどこかを指さしているらしいが、俺にはその指が見えない。
「……連れて行ってくれるか?」
「うん!」
ネメの細くて小さな手が、きゅっと俺の手を握り、ぐいぐいと俺を引っ張っていく。……足元も全然見えないからそんなに急ぐと怖いんだけどなぁ。
ネメに引かれるがまま、おぼつかない足取りで歩くこと数分。
確かに前方から人の声らしきものが聞こえる。どうやら勇者一行らしい。
しかし、魔法が使えない俺ならともかく、ヴェイラなら炎の魔法で明かりにするくらい簡単だと思うんだが……真っ暗闇の中で何やってんだ?
「──では、明かりを点けます。『
瞬間、見上げるほどの火柱が燃え上がった。かと思うと炎は一瞬にして何十個にも分裂し、四方八方に散らばって――無数のロウソクの火のように周囲一帯を照らしだした。
それを見て、勇者サマは満足げに頷いている。
「うん。ここまでやれば問題ないでしょう。お、そこにいたんですねコウタロウさん」
「……ここまで明るくする必要あるのか?」
他に話すことはいくらでもあるが、気になることは気になる。
「ええ。この暗闇で光は目立ちすぎますから、ひとつの明かりだけなら自分の位置を教えているようなものです。ですが、ここまで数を増やせば――」
……なるほど。数十メートルの規模で光源を並べておけば、そうそう位置は絞り込めない、と。
「なるほどな。しかし、随分頭脳派になったんじゃないか?」
俺たちがミミナの街で出会ってから、まだ一か月も経っていない。その割には思考が随分大人びたというか……。何なら雰囲気も少し落ち着いた感じすらある。
「ええ、ちょっと『時間の流れ方が違う場所』で修業をしたんですよ」
ああ、『ナントカとナントカの部屋』みたいなやつか。
と、今度はお供の女戦士マルビナが話しかけてきた。
「そういうお前は変わってないようだな。仲間は増えたみたいだが」
「ああ、俺なんかより遥かに強い、頼もしい仲間たちだよ」
「その子もか?」
俺の手をにぎにぎしながら辺りをキョロキョロと見まわしているネメを見て、マルビナが聞いてくる。
「まあ、少なくとも俺よりは強いな」
「そうか……分からんものだな」
やっぱり戦士だと暗殺者の実力は分からないんだろうか。
「さて」
俺たち全員を集めて、勇者サマが話し始めた。
「こうして無事に全員揃ったところで、ここから脱出する方法を考えましょうか」
そうなのだ。
あまりの広さで感覚が狂うが、ここはあの老婆の壺の中。そのつもりで地面を触ると、確かに陶器っぽい感じがする。まあ表面の凹凸が遥かに巨大に引き延ばされているのでこれはこれで未知の手触りではあるが。
何にせよ、ここから出ないことには何も始まらない。まあ、俺が掘ればどうとでもなりそうな気がするが。
と、俺の隣におとなしく座っていたネメが、急に声を上げた。
「ねえ、コー」
「どうした、ネメ」
すると、ネメが後ろの方を──何も見えない真っ暗闇の中を、すっと指さした。
「あそこのひと、ほっといていいの?」
……どうやら、ここにいるのは俺たちだけではないらしい。
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