サクッと倒してハイおしまい。……んなわけないか
毛むくじゃらの魔物は両腕を振り上げて巨体をアピールし、筋骨隆々の魔物は力こぶを見せつけてくる。
どちらも、俺が戦ったなら一瞬で再起不能にさせられそうなくらいには強そうな魔物だ。
だが、残念ながらお前らの相手は俺じゃない。
ドッ、とコロナの金属の足が地面を蹴る。瞬間、背中と足裏に噴射炎が灯り、ジャンプから一気に飛行姿勢に移行。湖を一直線に突っ切って、最短距離を飛翔する。
2体の魔物は想定外の事態に慌てて身構えるが、もう遅い。
コロナは2体の目の前まで飛び、ギリギリまで接近してからクルッと縦に一回転。すると魔物は2体とも遥か上空へすっ飛んでいき──
──宙返りの勢いで魔物を投げたんだな、と俺が気付いた直後。
ドガッ、ゴシャッ、と2体の魔物はなすすべなく墜落、地面に激突した。
「さて……どうしますか?」
コロナが自分の倍以上でかい魔物をそれぞれ片手で吊し上げている。
魔物は2体とも気絶しているのか身動きひとつしないが……いや、ここまでの実力差を見せつけられたら起きてても大人しくしてるか。
ともあれ、場合によっては尋問とかするかもしれないが、今はまだこいつらに用はない。
「とりあえず逃げないように……縛っておくか?」
「このくらいの魔物となると普通の縄では役に立ちませんし……」
すると、ネメが俺とコロナの間に割り込んできた。
「わたし、みはりできるよ!」
そう言いながらネメが懐から取り出したのは鋭利な短剣──ではなく、先の丸くなった訓練用の短剣だ。
……俺はこんなものを与えた覚えはないが?
「これは、コロナが?」
「そうだよ!」
「はい。ネメも女の子ですから、このくらいの備えは必要だろうと、服と一緒に買ってきました。もちろん刃引きもされているので安全ですよ」
安全、ねぇ……。まあ、子供が刃の付いてない短剣で相手を殺せるはずはないから、そういう意味では安全か。
無論、コロナと対等に渡り合った
「よし、じゃあネメはそいつらが起きそうになったら教えてくれ。逃げたり、襲ってきたりしたら攻撃していい。でも出来るだけ殺さないように」
「わかった!」
それで、あとは杖の行方だが……
「やっぱ湖の中か?」
「はい、他にそれらしい魔力反応もありませんし、その可能性が一番高いですね」
やれやれ、なんでわざわざ湖の中に杖を沈めたんだか。深い湖だったら回収するの面倒だぞこれ。
「どうする?」
「杖だけが湖の中にあるのなら、底を歩いて回収できますが……」
そういやコロナは耐水性があるとかで水中でも問題ないんだったか。
いや、今はそれよりも。
「何か気になるか?」
「はい。……約500年前、この辺りに氷の軍勢を率い、一帯を支配した魔物がいたのです。その根城は湖に築いた氷の要塞で、勇者が登場するまで誰も討伐することができなかったそうです。もちろん、最後には勇者に討たれてその魔物は死んだのですが……」
氷、魔物、そして湖。
単なる偶然と切り捨てるにはそろいすぎてるかもな。
「慎重にやってもいいと思うぜ」
「わかりました。ではメルターレーザーで湖を半分ほど蒸発させるので、コウタロウさんは下がっててください」
慎重にやるための選択肢が大胆すぎやしないか?
俺が木の裏に隠れたのを見届けると、コロナは湖の真上まで飛び、ホバリング。
「いきます。『メルター──」
『させぬわ!!』
コロナの声をかき消すように、地の底から地鳴りのような声が響いてきた。
同時に、湖面が内側から爆ぜるように割れ、
バキバキバキィ!!
巨大な氷の腕が水中から生えてきた。その巨大な氷が、真下からコロナに襲いかかる。
「くっ」
コロナは攻撃を中断、寸前で氷の巨腕を躱し、すぐさま腕の付け根めがけて攻撃を放とうとする。
だが、コロナが狙いをつけたまさにその場所から、バキバキッと氷の巨腕が枝分かれするように伸びてくる。これも飛んで躱したコロナは再度攻撃を試みるが、またしても新たな氷の腕が狙いを定めて伸びてくる。
「キリがないですね……」
コロナは一旦攻撃を諦めて、大きく飛び上がって距離を取る。すると木のように枝分かれした氷の巨腕が、粉々に砕けて湖に沈んでいった。
代わりに湖の底から浮上してくる影がひとつ。氷の巨腕に比べればごく小さい、人間大の氷の塊。……いや、人間大で人型の氷だ。
『やれやれ、あと数日で完全に復活できたものを。これでは我が直々に出向くしかないではないか』
愚痴っぽいぼやきと共に水上に姿を現したのは、氷像。その手には、杖らしきものが握られている。
それを見たコロナが小さく呟いた。
「悪い予感は当たるもの、ですね」
ということは、どうやら本当に500年前の魔物が蘇ったらしい。
氷像の魔物は、腰に手を当て、ふんぞり返りつつ名乗りを上げる。
『我が名はフリームスルス。500年の時を経て蘇った、先代魔王軍の最大戦力、氷魔軍団の長にして創造者。又の名を、大地を氷に閉ざすもの。そして今再び、我が勇名を轟かせよう。貴様ら人間どもの死をもって!』
……ご大層な口上だが、聞いてるのは俺たち3人だけなんだよな。
そしてコロナは全く動揺した様子もなく平然と応じる。
「そうですか、それは残念です。貴方の勇名が二度轟くことはありません。ここで人知れず討たれるのですから」
『ほう。言うではないか、金属人形よ。だが、これを見ても軽口が叩けるか?』
フリームスルスと名乗った氷像の魔物。その周囲の水面から、先程と同じ氷の巨腕が4本、地鳴りにも似た轟音を立てて生え伸びる。
しかもそれで終わりではない。8本、16本、32本と、一気に腕を増やしたその姿は、ヒュドラやヤマタノオロチを彷彿とさせる異形だ。生えてるのはどれも腕だが。
見た目にはシュールな、氷でできた腕の塊と化したフリームスルス。だが、その質量はスケルトン・ドラゴンをも上回る規模だ。
流石にこれはきついか……? と上空のコロナを見上げると、
「大きいことはいいことです。倒しがいがありますからね」
やる気満々かよ。
会話もそこそこに、コロナは空中機動を開始。
腕の隙間を狙うように見せかけて、追尾してきた腕の一本に狙いを定め──
バガン、と鉄拳一閃。
クイックターンの遠心力を乗せた高密度合金の拳は、あっさりと氷の巨腕の手首までを粉砕した。
と、今度は掴みかかってきた氷の巨腕を待ち構え、
「『ラヴァ・カッター』!」
真っ赤に焼けて輝くコロナの手刀が、巨腕を真っ二つに溶断。瞬間的に生じた膨大な熱量で、周囲の腕の先端をまとめて消し飛ばす。
そして、発生した蒸気がフリームスルスの視線からコロナを隠す。
瞬間、右手を腰だめに構えたコロナは、その手のひらに強烈な赤い光を灯した。
「これでどうです!
『
コロナの手から、超高温の赤い光線が放たれる──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます