暗殺少女が仲間になった! レッツ3人旅!
しっかし話が進まねえ。まあ名前がないと不便だからしょうがないが。
「それで……ネメはどうして俺たちを攻撃したんだ?」
ふるふると首を振るネメ。
「ううん、コ、コー……?」
どうも俺の名前が珍しすぎて覚えきれないらしい。
「俺はコウタロウ。何ならコーでもいいぜ」
「うん。わたし、コーはころそうとしてないよ」
そういえばそうだったな。
「じゃあ、コロナとか、他の人たちを殺そうとしたのはなんでだ?」
「めいれいだから」
「どんな命令なんだ?」
「このどうくつにはいってきたやつをぜんいんころせって、めいれい」
「……それだと俺が狙われない理由にならないな」
「んーとね、『ひぶそうしゃ』はとくべつなめいれいじゃないと、ころしちゃいけないんだよ」
なるほどな。
俺は振り返ってコロナを見る。
「聞いた感じ、暗殺組織か何かに育てられてたって感じだな」
「はい、わたしも同感です。この時代にどのような組織があるのかは分かりませんが、
だよなぁ。
なんでネメがこんなところにいるのか知らないが、バックにやばい組織が付いてるとなると、いろいろ考えなきゃならない。
「ネメは……帰るところはあるのか?」
すると、明らかにしょんぼりとした顔でうつむき、力なく首を振った。
「ううん。わたし、しっぱいしちゃったから……。めいれいをしっぱいした『やくたたず』は、おいだされちゃうの」
……となると、組織が取り返しに来る可能性は低そうだ。でも、口封じとかで始末しに来る可能性はある。
と、今度はコロナがネメに質問する。
「ネメ、あなたはいつからここにいるのですか?」
ネメは考え込み、指折り数えていく。端から指が折られていき……10。逆に指が開いていき……20。
「わかんない……けど、20回くらいはねむったから、20にちくらい?」
「なあ、その間に命令通りに殺したのは何回くらいあるんだ?」
「ちょっとまえに、がちゃがちゃしたよろいのひとたちをいっぱいころしただけ。ここ、あんまりひとこないから」
改めて、俺とコロナは顔を見合わせる。
「なあ、これって……」
コロナは口を動かさずに通信装置で返事をした。
『はい、これほどの実力者を、大した目的もなく20日も放置するなど、常識的に考えてありえません。致命的な問題があって厄介払いされたか……あるいは、組織自体が壊滅した可能性もあります』
やっぱりそうなるか。
そうなってくると、ネメをどう扱っても大した問題にはならなさそうだ。ひとまず安心といえる。
ちなみに……
「実力者、なのか?」
俺としては、めちゃくちゃ速くて気配が全然ない以外に情報がないので強いか弱いかはよく分からなかったのだが。
『はい。わたしの高密度合金の装甲さえなければ、10秒ほどで機能停止に追い込まれていたと思います。とはいえ、その場合はわたしも生存を度外視で戦うので相討ちになるとは思いますが』
おっそろしいな。今更ながら生きた心地がしない。
さて、ネメの方の事情はざっくりとだが分かった。
あとは俺たちがどうするかだが……。
「なあコロナ、3人旅ってどう思う?」
「えっと……わたしは構いませんが、いいのですか?」
「暗殺しか知らない子供を、そこら辺に放っていくわけにもいかないだろ。街中でうっかり誰か殺したら、こいつも周りもおしまいだぜ?」
「それは、わたしたちも同じなのですが」
「近くに対等な実力者がいるのといないのとじゃ結構違うと思うぜ?」
コロナは少し考え込んで、それから力強く頷いた。
「わかりました。でもその前にひとつ」
そう言うと、コロナはネメの前にしゃがみ込んだ。
「ネメ、わたしたちと一緒に来ますか?」
「え? なんで?」
コロナは、自分の胸に手を当てて、ネメにだけ見えるように何かを見せた。
「わたしは人ではありません。およそ500年前に作られたメタルアンドロイド──高性能なゴーレムみたいなものなのです」
「すごーい……」
コロナはそそくさと何かを隠し、話を続ける。
「わたしは500年前に魔物と戦うために作られました。しかし、魔王は勇者様によって倒されて、わたしは用済み、『やくたたず』になってしまいました。それからまもなく、世界は平和になってしまったので、戦うために作られたわたしは長い眠りにつきました。そうして500年が過ぎて、わたしはこのコウタロウさんの手によって再び目覚めることができたのです」
そこでようやく、俺はコロナの意図に気付いた。コロナとネメの境遇は、かなり似ているのだ。
「500年ぶりに目覚めたわたしは、知り合いもいなくて、すべきこともなくて、途方にくれていました。そこを、コウタロウさんが誘ってくれたのです。一緒に旅をしないか、と」
「そうなんだ……」
コロナは、あくまで自分のこととして語る。
「帰る場所も、すべきこともなくなってしまったけれど、旅をしていればいろんなところに行けますし、いろんな人に会えます。そのうち、きっと、やりたいことや行きたい場所が見つかります。だって世界は広いんですから!」
夢を語るかのように、コロナはネメに語って聞かせる。ネメの顔つきも乗り気になってきているように見える。
「だから、もしもネメがわたしたちと旅をしたいと言うのならば、わたしは歓迎します。でも無理にとは言いません。どうしますか?」
答えはすぐだった。
「わたしもいく! いっしょにいきたい!」
「じゃあ決まりですね!」
鉱夫と戦闘ロボと暗殺少女の3人旅か。妙なことになったが、まあ賑やかなのも悪くない。
ネメを加えて3人になった俺たちは、地上に戻る前に、未だにすやすや眠っている姫様を回収しに来た。
その場所は煙突のような細い縦穴の下、ふかふかの苔が生い茂った天然のベッドのようなところで眠っていた。いいご身分だ。いや実際えらい身分なんだけど。
「あとは戻って報告するだけですね」
ああそうだな、と返事しそうになって、何故か俺は思いとどまった。
縦穴の向こうに見える空はもう暗い。
そりゃそうだ。依頼を受けた時点で夕方だったのだ。日が暮れていても何もおかしくはない。
「コロナ、今はもう夜か?」
「はい。日没からは1時間近く経っています」
だよな。
そして俺はおもむろに壁に耳を押し当てる。聞こえてきたのは、大量の足音、金属音、呼吸音。
俺たちが入ってきた地下牢の側と、そしてこの真上にも、武装した人間が何人も待ち構えているらしい。
更に耳に意識を集中させると──
『……まだか。あのでかい音がしてから結構経つぞ。一体どうなってんだ……』
『……気を抜くなよ。人食い大百足より何倍も強いって話だ。今に突き破って出てきてもおかしくない……』
……そういえば一緒に依頼受けてたやつらを置いてきたんだったな。
多分、あいつらがちゃんと報告した結果、最悪の事態に備えて騎士やら兵士やらを集めて配備してるんだろう。
つまりこのままのこのこ出て行ったら、俺たちは大百足の何倍も強い正体不明の怪物を倒してきたことになるが、その怪物はネメなわけで、死体も痕跡も残ってなくて……あー、考えるのめんどくさくなってきたな。
「……コロナ、手から赤いビーム出すやつ、撃てるか?」
「メルターレーザーですね。いけますよ」
「あれを適当に空に向かって撃って、あれが怪物だったってことにして、逃げられましたってことで終わらせようぜ」
「……しょうがないですね」
というわけで、俺は人のいないところまで穴を掘り、そこから夜空めがけてコロナがメルターレーザーを撃ち、後を追うような形でコロナに抱き抱えられて飛んで、手近な腰を抜かした兵士に姫様を預け、「後を追うぞ!」みたいな芝居を打って、そのまま遥か上空にトンズラした。
「これでよかったのですか?」
「いいんだよ。『怪物』の強さも不明だし、それまでろくな活躍もしてないし、これならそこまで注目されたりもしないだろ」
「うわぁ……すっごーい」
俺の横で抱き抱えられてるネメが、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回している。そりゃ空の上なんて来たことないだろうしな。
「たびって、すごいね!」
若干ズレた感想だが、まあ気持ちは分かる。
「ああ、世界にはすごいものがたくさんあるからな」
「はい。世界は広いですから」
それからしばらく、コロナは俺たちを抱えたまま夜空を飛んだ。
ま、こういうのもたまには悪くないな。
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