軽い気持ちで受けた依頼が思ってたのと違いすぎる
「洞窟探検が得意なものはおらんか!」
とか聞こえてきたのだ。行くしかない。
小銀貨3枚をテーブルに置き、俺は席を立った。
「行くんですか?」
「ああ。あんだけ急いでるなら報酬も期待できるだろうし、気分転換にもうってつけだろ」
コロナは何か言いたげに眉パーツをひそめたが、ぐずぐずしているとチャンスを失ってしまう。コロナには悪いが、今は俺の独断で動かせてもらう。
店を飛び出し、左右に伸びる道に視線を走らせる。日が傾いてきて少し見づらいが……いた。馬を走らせている男だ。
「おーい、そこの馬に乗ってるあんた!」
声を張り上げて呼びかけると、馬は急制動からのUターンでこちらに戻ってきた。
「わしを呼び止めたのはお主か」
馬に乗っていたのは、そこそこ歳を食ったおっさんだった。格好と体型から察するに、軍人とか傭兵とか、そんなところだろう。
「ああ、俺だぜ。洞窟探検って聞こえたんでな」
対するおっさんも、ジロジロと俺を観察している。
「お主……若い上に体つきも貧弱だが、自信はあるのだろうな?」
「見ての通り、鉱夫だからな。地下に潜るのは得意だぜ」
「経験はあるのか?」
「ああ、古代遺跡の発掘から探索までを一人でやり遂げたことだってある」
すると、おっさんは目を細めた。
「ほう……とりあえず付いてきてもらおうか。話は付いてからだ。ところで、後ろの者は知り合いか?」
後ろを振り返ると、いつの間にかコロナがぴったりと寄り添っていた。
「ああ、俺の仲間だが」
「戦闘なら得意ですよ!」
おっさんは目を閉じて頷きながらヒゲを触った。かと思うと、カッと目を開き声を張り上げた。
「ようし! では二人とも付いて来るがよい!」
付いて来いと言われて、歩くこと数十分。
立派な屋敷の門をくぐったかと思うと裏口から出て、水の枯れた地下水路を通ったかと思うと、今度は城壁の上を歩いている。
「わたしたち、どこに連れて行かれるんでしょうか」
めちゃくちゃな移動経路に、コロナも流石に警戒しだしたようだ。
「さあな。まあ、用心してるんだろ。尾行されてないかとか、俺たちが経路を覚えてしまわないかとか」
すると、俺たちの前を歩くおっさんはヒゲ面でにやっと笑った。
「ほほう、頭も回るようだのう」
「まあ、あんたの主人にも大体あたりが付いてきたところだしな」
「ほう?」
試すような目でおっさんは俺を見てくる。だが、ここで下手に手の内を晒すのも良くない。
というわけで適当にぼかす。
「そうだな……まあ、かなり羽振りの良さそうな依頼主だと思うぜ」
「ふむ」
「へーえ」
おっさんは値踏みするかのように、コロナは俺を見透かそうとするように、それぞれの視線が俺に集中する。それを適当にあしらいながら、俺は2人を歩かせる。
……ちなみに、おっさんはわざと複雑な経路を辿っているが、鉱夫パワーによって人間GPSと化した俺にはそんな小細工は通用しない。
そして、複雑な経路を通りながら俺たちが近付いている場所はというと──この王都の中心部。
都市の中心って言ったらもう……そういうことだろ。
「……やれやれ」
「どうしたんですか?」
どうもこうも……人生ってままならないよなぁ。
そうして数分後。
俺たちは一つの部屋に通された。サイズ的にはバスケのコート一面分くらいか。独立した一つの部屋としてはそれなりに大きなスペースがあった。
そんな部屋の中に、数人のグループが10個、それぞれ微妙に間隔を開けて固まっていた。
「なあ、こいつらって……」
おっさんにそれとなく聞いてみると、
「かなり危険で難しい仕事になるからのう。正直なところ、半数は説明の段階で脱落すると考えておる」
……つまり、同じ仕事を受ける競争相手ってことだ。
罠も隠し部屋も全部看破して突破できる俺と、アンデッドの軍勢でもスケルトン・ドラゴンでも問題なく倒してのけるコロナのコンビなら、攻略できない洞窟なんてないと思うが……。
まあ、あんまり張り切りすぎて名前が売れまくっても困るからな。俺のまったり異世界ライフのためにも、手柄はどんどん譲っていく方針でいくか。
「コロナ。俺が許可を出すまでは積極的な戦闘は無しだ。俺たちに攻撃してくる敵だけ倒してくれ」
「……了解です」
戦闘特化型メタルアンドロイドとしては思うところがあるようだが、今回は首を縦に振ってくれた。
まあこれで、敵を倒すという手柄の大部分は他所に回るはずだし、そんな目立つことにはならないだろ。
ちなみにこの場所、王都のど真ん中に位置していて、さっき何気なく周辺の音を探ってみると、まさかというかやはりというか、とてつもなく広い土地に建っているとてつもなくでかい建物の一部だった。
もう、どうあがいても城だ。
……あとは依頼主が王族じゃないことを願うくらいしかないな。
そんな俺の願いは、あっさりと裏切られた。
「国王陛下のお出ましである。皆、頭を下げよ」
そんな騎士の声が聞こえたかと思うと、俺たちが平伏するのも待たずに豪華な衣装で身を包んだ老人が入ってきた。間違いなく王だ。
やれやれと心中でため息をつく暇も無く、王様が声を上げた。
「よい、顔を上げよ。今は一刻を争う事態である。頼むぞ! 詳細は騎士団長が話す」
すると今度は入れ替わるように金髪中年騎士団長が前に出てきた。
「では簡潔に。依頼の内容は陛下の孫娘の捜索である。場所は王宮の地下に位置する、地下牢と洞窟の融合した地下迷宮。地下迷宮の広さや深さは不明。そして、これが最も重要なのだが……地下迷宮には恐ろしい怪物がいる」
周りの人間たちがざわつく。
怪物……魔物とは違うんだろうか。と思っていると、同じ質問が周りから飛んだ。
「その怪物ってのは何なんだ?」
「正直に言うが……何も分からない」
答える騎士団長の顔は沈痛そのものだ。
「情報としては、姫様──陛下の孫娘の捜索のために騎士50人が向かったのだが…………半数が帰ってこなかった」
瞬間、場の空気が凍りついた。
「生存者の話によれば、隣を歩いていた者の首が、数秒目を離した隙に斬り落とされていたとか。それが何度も繰り返され、騎士達は潰走したとのことだ」
……想像の千倍くらいやばい話になってきたな。
「な、なあ、その騎士達は反撃くらいしたんだろ? その怪物の姿くらいは見たんだよな?」
「残念だが……。生存者の話を聞く限りでは、気配や予兆のようなものは何もなかったようだ。もちろん、姿を見たものもない」
いよいよもってマズい話だ。せめてもう少し情報がないものか。
「一つお聞きしたいのですが、」
今度は別方向から質問が飛ぶ。
「その騎士達というのは全身鎧に松明を持って洞窟に侵入したということでよろしいですかね?」
「ああ、その通りだ。松明に関しては全員ではないが、鎧は全員着ていたはずだ」
首を含めた関節部は鎧の弱点ではあるが、全身鎧を着込むような連中は、鎧の下に頭から膝くらいまでをすっぽり覆う鎖帷子を着ているのが常識だ。
そう簡単に首を切れるはずはない。
となってくると、
「む、無理だ! 俺は降りるぞ!」
「ウチもお手上げだね」
「命が何個あってもやってられん」
まあこういう反応は当然か。
結局、こんな仕事は受けられないということで、大半の人間が部屋を退出。
残ったのは、俺たちの他には2グループだけになっていた。
「……ふむ。まあ、これだけ残れば上出来かの」
ぽつりと王様が呟く。
それで残ったメンツはというと、
「はっはっは、心配いりませんぞ! どんな怪物だろうが拙者が必ず仕留めてみせますぞ!」
一組目は、声も図体もでかい男と、その陰に隠れている付き人の2人組。
二組目は、
「必ずや、我々が姫様を救い出してみせます」
黒マントのイケメンが率いるなんか強そうな4人組だ。
よく分からんが、ガチ勢っぽいのが残ってくれたようだ。
これで、悪目立ちはしないで済む……のか?
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