異世界ファンタジーかと思ったらゾンビ映画でしたってか
地獄のように燃え盛っていた炎が収まった頃合いを見計らって、焼け焦げた荒野を突っ切るように歩いていく。
元々目印になるようなものはないし、あったとしても今さっきの大規模破壊活動で跡形もなく消し飛んでいるだろうが、俺は人間GPSなので問題ない。
「さて、ここらへんが発生源のはずなんだが……」
足音を頼りにやってきたのは、荒野のど真ん中。大きめの岩が転がってる以外には特徴らしい特徴もない。
「見た感じ、変なものはありませんね」
コロナの目でも発生源らしきものは見つからないようだ。
地上に発生源が見つからないのなら、あとは上か下だ。
「コロナ、上空で何か見かけたりしたか?」
「いえ、変わったものは何も」
「じゃあ下だな」
地下の音を聞くために岩に近付こうとした、その時。
目の前の岩から、カランと音がした。
「……聞こえたか?」
「はい。この音は──」
直後、岩のくぼみからのそりと這い出てきたのは、やはりスケルトンだった。
俺たちの存在に気付いているのか、いないのか。のそのそと四つん這いで出てくるスケルトンは、弱点の頭蓋骨を無防備に晒して、今のうちに襲ってくださいと言わんばかりの隙を見せていた。
なので当然隙を突く。
「ふんっ!」
岩のこびりついた聖剣を振り上げ、むき出しの頭蓋骨に振り下ろす。
頭蓋骨は軽快な音を立ててバラバラに砕け、スケルトンは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「隠れるタイプのスケルトンだったんでしょうか」
スケルトンが完全に沈黙したことを確かめながら、コロナは言う。
「その可能性もなくはないが……多分違うな」
答えながら、スケルトンが這い出てきた岩のくぼみを覗き込む。
一見するとその横穴は、人一人がギリギリ潜り込める程度の奥行きしかない。だが――
「何かありました?」
「ちょっと見てろ」
俺はスケルトンの体の一部だった小さい骨を手に取って、横穴の奥に向かって投げつけた。
骨は穴の奥の壁に当たって跳ね返って――こない。
壁など存在しないかのようにすり抜けて、カン、カン、カランと、さらに向こうで数回バウンドして音を響かせた。
「なるほど、幻覚ですか!」
「ま、そういうことだ」
そしてこの穴の奥に大量のスケルトンを生み出す元凶がある。たぶん。
それから二度ほど、今度は岩に耳を当てた状態で骨を投げ込み、地形を把握。
どうやらこの穴の先には結構な大空洞が広がっているようだ。
「どうします? この穴から侵入していきますか?」
コロナの言う通り、普通ならその選択肢しかない。
だが、俺はスーパー鉱夫だ。
「いいや、もっといいやり方がある」
俺はツルハシを担いで大空洞の真上まで歩いていく。
音で聞いた感じだと、地面から大空洞の天井までは最も薄い部分で3メートル前後。ドーム状の天井はなんだかよく分からない硬そうなもので出来ているが、ツルハシが入らないほどの硬さではない。
2回……いや、思いっきり叩き込んだら1回で開通するか。
「コロナ、ちょっと命綱持っててくれ」
「それは構いませんが……今から何を?」
ツインテール型パーツを揺らしてコロナが首をかしげる。
そういえば、コロナには見せてないんだったか。
「2、3秒で穴が開くから、ホバリングしながら空洞の中へ降りていく作戦だ。いいな?」
コロナは顔面の金属パーツを巧みに操って「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな表情を浮かべているが、説明するのも面倒なのでこのまま行く。
見たら理解するだろ。きっと。
ツルハシを両手でしっかりと握りしめ、頭の上まで高々と振り上げ──そこから一気に振り下ろす!
ズドォォォォン!!
大砲じみた轟音が炸裂し、地面が抉れ、吹き飛び、黒々とした穴が現れた。予想通り一撃で開通したようだ。
そして、足場をなくした俺は当然のように穴に吸い込まれていくわけだが、1メートルも落ちないうちにグイッと命綱が俺を引き止めた。
流石はロボット。指示はちゃんと守ってくれたらしい。が、その声色は何か言いたげだ。
「えーっと、何点か聞きたいことがあるんですけど……」
「こういう体質なんだよ」
「どんな体質ですか……」
呆れたようにコロナは言う。
いろいろと気になるのは分かるが、今はそれより優先することがある。
「とにかく、降りていくぞ」
「……了解です」
ゴオォ……と控えめに噴射炎を鳴らしながら、コロナと俺はゆっくり空洞の中へと降りていった。
ドーム状の天井に覆われるように存在した大空洞は、地下にあるものとしては高さも広さも結構な規模だった。ちょっとした体育館くらいのサイズはあるんじゃなかろうか。
あと、ちょっとやばい感じの匂いもする。率直に言って臭い。
「なあ、ロボ……じゃなかった、メタルアンドロイドは匂いは分かるのか?」
「嗅覚を再現したタイプもいますよ。私は戦闘特化型なので嗅覚機能の大部分が省略されてますが」
「そうか」
うらやましいな。
と、そんなことを言っているうちに、空洞の中の暗さに目が慣れてきた。
すると、見えてきたのは、おびただしい数の骨と死体だった。
まあそういうことだろうとは思ってたけど、見ていて気持ちのいいものではない。っていうかこれ足の踏み場がないんじゃね?
「ちょっと今の何よぉ!?」
突然、下の方から女の怒鳴り声が聞こえてきた。見ると、物陰からロウソクの明かりと共に髪の長い女が現れた。
……見た感じ、生きた人間のようだ。こいつが元凶か?
「ここら一帯のスケルトンはお前の仕業か?」
「いや今そういう話してないからぁ。何やらかしたら地面に穴が開くのかしらぁ!」
「地面を掘ったら穴が開く。当たり前のことだろ?」
「はあぁ!? 意味わかんないこと言わないで!」
『これにはわたしも同意見です』
コラ、俺にしか聞こえない声でしれっと同意してんじゃねえ。
「そうとしか説明できないことも世の中にはあんだよ。で、今度はそっちの番だぜ。どうなんだ?」
すると、女は雰囲気をがらっと変えて怪しい笑みを浮かべた。
「私の仕業だって言ったら、どうするのかしらぁ?」
「ぶちのめして牢屋にでも叩き込むつもりだが」
「そう、でもそれはできないわぁ。だって、貴方たちはここで死ぬんだもの!
――死の宴の始まりよ、『カーニバル・コープス』!」
その呪文を合図に、床一面に散らばった死体たちが一斉に起き上がりだした。
あるものは骨を軋ませて、あるものは腐肉を引きずって、またあるものは遺品にすがりつきながら。
ズゾゾゾゾ、と気味の悪い音の合奏と共に、何十体ものアンデッドの群れが立ち上がった。
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