5.ロボット少女が無双して死霊術師をこらしめた話
聖剣を押し付けようと思ったらいなくなってやがる
ミミナの街には大きな門が二つある。門はそれぞれ街道に繋がっていて、街に出入りする人間は必ずどちらかの門を通ることになる。
なので、門を担当する衛兵たちに聞けば街を出入りした人間は大体わかるようになっている、のだが。
「女と子供の二人旅? いや、何日か前に入ったのは見たが、出たのは見てねえな」
「子供も女戦士もなかなか見かけないからな。その組み合わせなら見逃すはずはない」
どうやらこちらの門でも目撃情報はないようだ。
「うーん、困りましたね、コウタロウさん」
「ああ、どっちの門も通ってないとなると、まだ街の中にいるのか……」
あるいは空でも飛んで出て行ったか、だ。
「ところで坊主。隣の金属ゴーレムみたいな子は何者なんだ?」
衛兵の1人に聞かれて、俺はこっちでは説明してなかったのを思い出した。
「ああ、俺の仲間のコロナだ」
「はい、コロナです!」
少女を模した赤銅色の金属製ロボットのコロナは、俺の隣で愛想よく笑ってみせる。
「あ、ど、どうも。えーっと、キミは何者?」
「わたしは古代遺跡から発掘されたメタルアンドロイドです。ゴーレムっぽいですけど、ゴーレムよりも賢いんですよ! えっへん!」
あくまで人に造られたロボット、しかも造られてから500年も経っているはずなのだが、コミュニケーションに難はない。何なら俺よりコミュ力が高そうな気もする。
とまあ、そんなことは置いておいて。
「門を通らずに街の外に出る方法はあるのか?」
「んー、一般人は無理だが、飛空騎兵団にコネがあれば飛んで出られんこともないな」
飛空騎兵団……初めて聞いたな。
「ちょうど昨日の午前に王都から来ててな。あれに連れてってもらったんなら門を通らずに外に出れる。つっても飛空騎兵団は王様か大貴族のお抱えだからなぁ、庶民には縁のない話になるが」
……あの勇者サマがこの国でどういう立ち位置なのかは不明だが、魔王軍と直接戦っている(らしい)この国が勇者を手厚く歓迎する可能性は高い。
というかお供の女戦士マルビナも護衛として任命されてるっぽい感じがしたし。多分この線で当たりだろう。
「一応聞いておくが、昨日の飛空騎兵団はどっちに向かって飛んだんだ?」
「方角はほぼ真北だったはずだ。王都に直行したのかもな」
「そうか、わかった」
物珍しさで集まってきた衛兵たちからコロナを引きはがして、俺は早足で道を歩く。
「えっと、結局勇者様ご一行は北に飛んだんですよね。追いかけないんですか? わたし飛べますよ?」
後ろを付いて来るコロナがもっともな疑問を投げかけてきた。
が、それは却下だ。
「飛空騎兵団とやらの出発が今朝だったら、すぐ飛べば追いつけたかもしれないけどな。丸一日経ってるんだから急いでもしょうがない」
「じゃあ今度はどうするんです?」
「……どこに行くかは分からないが、何をしに行くかはある程度見当がつく」
俺は昨日までの冒険で、伝説の聖剣と古代文明の盾と鎧、そして古代遺跡の位置という情報を手に入れた。これらを適切に処理して換金するために、古代遺跡で仲間になったコロナに乗ってミミナの街まで帰ってきた。
昨日の時点では、盾と鎧を売り払って金に変え、掘り当てた遺跡の位置も情報屋を兼業する冒険屋に伝え、謝礼を受け取った。
だが、伝説の聖剣を渡す、もとい押し付ける相手──少年勇者のマコトはミミナの街から姿を消していた。
これが他の物だったら、俺も気にせず旅を続けただろう。だが、俺が持っているのは正真正銘の伝説の勇者の聖剣。
RPG的には最強装備かつ一品モノのユニークアイテムと言っても過言ではない。
うっかり無くしたりしたら責任の取りようがないし、何かの間違いで泥棒扱いされれば重罪人にもなりかねない。
そんなリスクを負い続けるのはごめんなので、俺たちは勇者サマを探していたというわけだ。
まあ、救いがあるとすれば、勇者サマが取るであろう行動がある程度読めることだ。
現状の勇者は、言わば序盤のレベルの低い状態で、仲間も女戦士マルビナの1人だけ。
であれば、やるべきことは仲間集めとレベル上げ。仲間の方は王だか大貴族だかのコネでどうにかなるかもしれないが、レベル上げ──つまり実戦経験を積むのは時間もかかるだろうし人任せにすることもできない。また、伝説の聖剣を抜くためにも実力の向上は急務だ。
となれば、俺なら手頃な相手を探して各地を飛び回る。
つまり、今探すべきはその場所だ。
「というわけで情報を売ってくれ」
「なんだまたお前さんか」
というわけで冒険屋に来た。昨日も来たし、よく考えるとおとといも来てるのでこれで三日連続ってことになるか。
ちなみにコロナは外で待機中だ。この店の床はコロナの重量を支えられるほどには頑丈じゃなさそうだからな。
「ちょっと予定が変わってな。腕試しが出来るような場所を探してる」
「腕試し……実戦か?」
「ああ、強さは問わない。戦いに行くわけじゃないんでな」
そう言うと、店主はあからさまに怪訝な顔をした。
「……まあ、客だからな。何をする気かは聞かねえがよ。それで、条件とかあんのか?」
「ここから真北にあるものだけ選んでくれ」
「真北か……」
ちょっと待ってろと言って店主は裏に引っ込み、何分か後に1枚の紙きれだけを持って帰ってきた。
「1個だけある。街道に隣接する荒野にアンデッドが出没するんだと。狩っても数が減らないからどっかに巣みたいなもんがあるんじゃねえかって話だ」
なるほど、条件には合うな。
「よし、買った」
「はいよ、毎度あり」
大銀貨と引き換えに簡易的な地図1枚とちょっとした食料を手に入れて、俺は外で待っていたコロナと合流した。
「次の目的地はここだ。行けそうか?」
「街道沿いの無人の荒野にアンデッド多数、ですか。周りの被害を考えなくていいので楽ですね!」
……距離のことを聞いたつもりだったが、戦う気満々だなこいつ。
「戦うかどうかは状況次第だぞ。既に勇者サマが倒してる可能性もあるしな。それよりも、これは飛んでいける距離なのか?」
するとコロナは不思議そうに首をかしげた。
「うん……? ああ、そういえば言ってなかったですね。フルチャージで大陸横断できるくらいは飛べますから、距離の問題は気にしなくていいですよ」
まじかよ、古代文明便利すぎるな。
「そうと決まれば早速飛びましょう! ほら!」
散歩を待つ犬みたいにそわそわして待つロボット娘に命綱を結び付け、反対の端を自分の腰に巻く。
……ロボットとはいえ、自分より背の低い少女に縄くくりつけて引き回すのはいろいろと問題があるので、これも早いうちになんとかしたいところだ。
「じゃあ行きますね!」
あと、コロナの腕に抱きかかえられて飛ぶスタイルも、見た目と安全面の両方から早くなんとかしたい。実際、今も周りからの視線が刺さるように感じられる。
「……早く飛んでくれ」
「了解です! いっきますよー!」
俺の内心など知ったこっちゃないコロナは明るい声で宣言するなり、ジェットエンジンばりの爆音を轟かせて飛び立った。
……離陸の時のGも結構やばいな。俺の体が頑丈じゃなかったら骨の一本くらい折れてるかもしれない。
今後のことも考えて、何かいい運ばせ方を考えないといけないか。
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