ロボ娘『コロナ』が仲間になった

「コウタロウさま。このわたしがあなたに仕えることをお許しいただきたいのです」

 少女型ロボットは唐突にそんなことを言い出した。

 いやいや、助けたツルはその日の晩にやって来るのが定番では? いくらなんでも早すぎるだろ。

「えーっと、どういう風の吹き回しだ?」

 すると、ロボットの瞳は複雑に揺れて、その顔を伏せた。

「わたし――メタルアンドロイドは、この研究所で人間に使役されるために作り出された存在です。しかし、コウタロウさまの話などから判断するに、わたしが仕えるべき研究所の人間ははるか昔にいなくなってしまったようです。晴れて自由の身というわけです」

「……まあ、そうだな」

「ですが、しょせんわたしは人間に作られた機械に過ぎません。自由の身となったところで、わたしには人に仕える生き方しか分からないのです。ですからどうか――」

 だから自分を使役する人間が欲しい。そういう話なのだろう。

 気持ちはなんとなく分かるし、拒絶して自由を強いるほど俺は自由とやらに信念を抱いているわけでもない。

 俺としても、そろそろ一人旅に飽きてきた頃だ。それにこのロボットは戦闘面でも役に立ちそうだし、安全面を考えても連れていくのは悪くない選択だろう。

 ただ――

「話は分かった。でも、俺は誰かに仕えられるほど大層な人間じゃない。だから、その話は飲めない」

「そう、ですか……」

 カクンとロボットの肩が下がる。よほど期待していたのだろう。でも、無理なものは無理だ。

「だけど、その代わり、俺の仲間になるっていうんなら話は別だ」

「……はい?」

「俺と一緒に旅をしたり、遺跡を掘ったり、追いはぎを退治したり……そういう感じだ。主従関係とは違うが、こういう経験が初めてなら、俺が先輩として面倒を見てやる。……どうだ?」

 ロボットの金属の目が、こぼれ落ちそうなほどに見開かれる。

「よろしいのですか?」

「ただし、仲間になるならいくつがルールがある。まず一つ、俺にはかしこまらなくていい」

 言いながら、華奢で冷たいロボットの手を取る。

「仲間は上下関係じゃない、対等だ。だから立って、握手から始めるんだ」

 遠慮がちに握り返してくる力を感じながら、俺は立ち上がり、少女型ロボットもまた立ち上がる。

「あとは、仲間になるなら名前を知らないとな」

「わたしの名前は……コロナです」

 同じ高さに立ち、正面から向かい合って、俺は少女型ロボット『コロナ』と手を握り合った。

「よろしくな、コロナ」



「それで早速なんですけど」

 すっかり元の調子に戻ったコロナは、人懐っこい笑顔を浮かべている。

「今からどこか行きたいところってありますか?」

「行きたいところ、かぁ」

 ひとまずこの遺跡で手に入れたスケイルアーマーと円盾はどこかで売ってしまいたい。防具としては優秀かもしれないが、なんだかんだかさばって邪魔なのだ。

 それと、ここに遺跡が存在したことを公にしてもらってちゃんとした調査も行ってもらうべきだろう。これは情報提供元の冒険屋にでも言えばいいだろうか。

 ついでに伝説の聖剣をずっと俺が持っておくのも何なので、さっさとふさわしい人間に渡してしまいたい気持ちもある。

 となると、

「ミミナの街に戻るか」

「ミミナ……初めて聞く街ですね」

 どうやら500年前には存在しなかった街らしい。

「ここから大体南西方向だな」

 冒険屋で買った地図をコロナに見せてやると、食い入るように見つめながらふむふむと頷いたりしている。

「この距離なら楽勝ですね!」

「何が?」

「飛ぶんですよ! 空を!」

 ……まじでか。


 別に高いところは怖くないし、速い乗り物も怖くはない。だけど、二つが組み合わさった上に、人型ロボットに搭乗席はない。

 つまり、

「……俺はどこに乗ればいいんだ?」

「しっかり抱っこしておくので安心してください」

 勘弁してくれ。

 高速で上空を飛ぶ。しかも二本の腕だけが頼りという心もとなさ。もとい命知らずの危険行為だ。

「えっと……飛ばないという選択肢はないのか?」

「わたしの重量を考えると、地上に出るためには飛ぶしかないですし、地上まで飛ぶならちょっと先まで行くのもいっしょだと思いますよ?」

 いっしょ……かぁ? まあ、コロナ的にはそうなんだろうが。

 とはいえ飛べるのがいろいろと便利なのは分かる。……しょうがないし命綱でも付けとくか。

「うん? なんですかそのヒモは。……命綱、なるほど。賢いですね。あ、わたしの方は首にでも結んでください。腰だとスラスターの炎で焼けてしまうので」



 そんなこんなで、俺はコロナの腕の中で絶叫マシン以上の体験をし、お姫様抱っこをされたままミミナの街に降り立ち、少女型ロボットをペットか奴隷かのように首に縄を括り付けたまま連れ回して変態的な趣味の持ち主だと勘違いをされることになった。


「どうしてこうなった……」

「落ち込まないでください! わたしは気にしてませんから!」

「俺が気にするんだよ!」

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