襲撃と聖剣、主人公ならここで覚醒するパターンだな
ボゴォンと腹に響く轟音。
音は上方――地上で鳴ったようだ。
「な、なんなの!?」
コリーンの様子からして突発的な花火大会みたいな、ほんわかしたイベントの線は消えた。
となれば、何者かによる攻撃か。
「なあ、この村に戦えるやつはいるのか?」
「えっ? 戦い!? や、ややややばいですねどどどうしましょう大変ですよ!」
しまったな。コリーンがパニック気味になってしまった。
「落ち着いて。まだそうと決まったわけじゃない」
「あ、そ、そうですよね。まだ分かりませんもんね。……ええと、戦えるのは、こんな田舎なんで大人はだいたいみんな戦えますけど……」
「けど?」
「あんな音が出るのって魔法しかないですよ。戦えるって言ったってそんなのの相手は無理ですよ!」
なるほど。どうやらこの世界では魔法ってやつは結構すごいものとして認識されてるみたいだな。
んでもって、俺としても「この体で魔法を食らったらどうなるのか」みたいな実験をしたいわけじゃない。
となれば、別の戦い方が必要か。
そうと決まればまずは情報収集からだな。
石の壁に耳を当てて聞き耳を立てると、すぐさま地上から声が届いてきた。
『おい、まだ例の剣は見つからないのか!』
『はっ、申し訳ありません! めぼしい家は一通り回ってみたのですがどこにも……』
どうやら上司らしき者と部下らしき者が会話しているらしい。
と、そこにもう一人部下が会話に加わった。
『全部焼き払っちまいますか? 建物の中を探し回るより簡単っすよ』
『馬鹿を言うな! 守りを固める前に正規軍に気付かれたらどうする! 我々の任務は勇者の剣のありかを見つけ出し、増援が来るまで持ちこたえることなんだぞ!』
会話の内容からして軍隊か何かの一員のようだが、どことなく変だ。
『いくら敵地だからって警戒しすぎじゃないっすか? コウモリの残党も言ってたじゃないっすか。まともな兵は残ってないって』
『そのコウモリにしたって本隊は壊滅したんだろうが! だったら警戒を怠るべきでは――』
コウモリの残党、そして「敵地」。
大体予想は付いたが、一応確認しておくか。
「コリーン、この辺を敵地って呼ぶ人間に心当たりはあるか?」
「敵地、ですか? いえ、この辺は戦争とは無縁ですし……」
「じゃあコウモリの残党はどうだ。何かの隠語だったりするか?」
「コウモリ? いいえ、特には」
ということは、この辺を敵地と呼ぶのはまず人間ではないだろう。
加えて、コウモリというのは昨日勇者サマが撃退したあのまんじゅうコウモリが率いていた群れのことを指している可能性が高い。魔物と情報交換できるのはやはり魔物だろう。
つまり、このナトゥンの村を襲った敵は十中八九魔物だ。
『ひとまず適当な人間を捕まえて剣の場所を吐かせろ。抵抗するようなら少々手荒くしてもかまわない』
『はっ! 了解しました!』
そこまで聞き届けて、俺は壁から耳を離した。
……さて、あまり時間はないようだ。
「落ち着いて聞いてくれ。どうやら、魔物が聖剣を探しているらしい」
「ままま魔物がっ!? どどどっどどっどうしまどど」
落ち着けというのが無理な話だったか。とはいえ、聞くべきことは聞かねば。
「気になるのは、魔物が聖剣を手に入れて何をするつもりなのかってことだ。心当たりは?」
「いいえまったく! というか魔物が触れたら体が燃えたとかいう話もあるくらいでして、魔物が使うのは無理だと思います。そもそも剣が抜けませんし!」
そういやそうだった。
それに、さっきの話では増援が来るまで剣を守り通すみたいなことを言っていた。もしも剣を抜く手段があるのなら、わざわざ危険な敵地に留まったりはしないはず。
つまり敵の目的は剣を抜くことではなく、抜かせないこと、か。
だったら――
「抜いてしまえばいいってわけだ」
さて。あまり時間はなさそうだしちゃっちゃと手早くやってしまうか。
俺は岩に刺さったままの聖剣の前でおもむろにツルハシを振り上げた。
「あ、あのー、一体何を?」
「掘る」
「ほ、掘る?」
「ああ、掘って抜く」
俺だってこんな無茶苦茶はやりたくなかったが、事態が事態なので仕方がない。
「いや、あの、掘るって言ったって岩の方にも魔法による防御がですね……」
魔法による防御、と言われて一瞬手が止まる。
が、よくよく考えると魔法で動いているストーンゴーレムだって掘れたのだ。ちょうどあれも古代文明のものだったし、だったらこっちもいけるはず。
「掘ってみりゃわかるさ」
俺は勢いよくツルハシを振り下ろし――
ガゴギィン!
あからさまに硬そうな音が響き渡った。だが、この感触は……
「ほ、ほら言ったじゃないですか! 掘るなんて無理なんですって」
「まだだ。下がれコリーン」
「へ?」
確かに手ごたえはかなり硬かった。しかし、跳ね返された感じはない。
コリーンが言われた通りに一歩下がったその瞬間。ツルハシを叩き込んだ一点から、縦横無尽に亀裂が走っていき――
バガッゴォォォン!
威勢の良い音を立てて岩は粉々に爆散。
土ぼこりが収まった後には、青く光る聖剣が横たわっていた。
「よし、掘れた……ん?」
だがよく見ると、聖剣の刀身部分にはびっしりと岩の残骸が張り付いていた。
言うなれば泥の中に突っ込んだあとのような感じで岩が剣を覆っているのだ。見ようによってはそういうデザインの鞘にも見えなくはない。
「う、うわわわわ……本当に掘っちゃったんですか」
「あー、まあ、掘れたと言えば掘れたが……剣としては使えそうにないな」
「ほんとだ、岩がこびりついてますね。これじゃ剣じゃなくて棍棒ですよ」
棍棒、か。剣なんか振ったこともないし、俺にはむしろ都合がいいかもしれないな。
しかも素材はこの世界で最も硬いアダマンハルコンと、俺のツルハシでも掘り切れなかった岩だ。それだけで十分使い道はある。
……いや、別に俺が使うつもりはないんだけども。
と、今度は頭上がにわかに騒がしくなってきた。
何が起きているかは、改めて地中を通して聞くまでもない。
爆発じみた轟音が鳴り響いたのだ。当然、魔物たちが様子を見にやってくる。
「コリーン、隅に隠れてろ。敵が来る」
「でも、コータローさんは?」
「……まあ、うまくやるさ」
とまあ格好つけて親指立てたりしてみたが、どうしたものか。
祠を崩落させながら地下に掘り進んで逃げるという手もなくはないが……それは最終手段だな。
「とりあえず、向こうの出方を見るしかないな」
そして待つこと10秒弱。
「まさかボロ家の地下にこんなものを隠しているとはな」
「だから言ったじゃないっすか。火ぃ付けたら早いって」
「何度も言わせるな! 正規軍に見つかったら終わりなんだぞ!」
怒鳴ったりわめいたりしながら姿を現したのは、紫の肌からねじ曲がったツノとコウモリに似た翼と細長い尻尾を生やした人型の生き物だった。
ざっくり言うと悪魔のような見た目──というか悪魔そのものだろう。
紫色の悪魔は全部で3体。服も武器も身につけていないが、魔法が使えるのだとしたら丸腰かどうかは大した問題じゃない。
「ところで爆発音の原因は……っ!」
1体の悪魔が俺に気付き動きを止める。少し遅れて他の2体も言い合いをやめて身構えた。
……速攻で攻撃を仕掛けてこないということは、それなりに警戒しているということだろう。
であれば、その警戒心を利用しない手はない。ハッタリ全開だ。
「何か騒がしいと思ったら魔物か。おあつらえ向きだな」
言いながら、右手に聖剣、左手にツルハシをそれぞれ握る。
そして、右手の剣をこれ見よがしに肩に担ぎながらさらに続ける。
「しかし3体か、物足りないな。おい、地上にはもっと仲間がいるのか?」
俺の質問を受けて、魔物は小声で言葉を交わす。
「……隊長、あの剣はまさか」
「……あの青い光を発する剣。そしてこの古い遺跡。可能性は高い」
「……さっきの爆発は例の剣が抜けた音っつーことっすか」
「……ああ、しょぼい格好の人間のくせに自信満々なのも」
俺的にはこのまま会話を続けてくれても全然構わないんだが、強者を演じるのであればここらで一発ガツンとやっておく必要がある。
おもむろに両手を振り上げ、両手で剣とツルハシを一緒に握り込み──
バゴォォォン!!
爆発じみた音が祠全体に響き渡り、3体の悪魔が揃って身動きを止めた。
ツルハシが地面に開けた穴を踏み越えて、巻き上げられた土埃を突っ切って、俺はゆっくりと悪魔たちに近づいていく。
「質問してるのは俺だ。お前らはただ答えればいい。どうだ、地上にはもっと仲間がいるのか?」
悪魔たちの気配が変わっていく。今のツルハシによる一撃は、悪魔たちからすれば聖剣の力に見えただろう。
もはや俺が握っているのが伝説の聖剣であり、俺が聖剣を抜いた人間だということを疑う様子はない。
「どうした、ビビって声も出ないか? じゃあこうしよう。今から30秒だけ待ってやる。仲間がいるなら全員呼んで戻ってこい。いないなら尻尾巻いて逃げ帰ってもいいぞ。たかだか魔物3匹程度じゃ試し斬りにもならないからな」
再度聖剣を担ぎ上げて、ニヤリと不敵に笑ってみせた。その直後。
「ててて、撤退だぁー!」
情けない号令と共に、3体中2体の悪魔が脱兎のごとく逃げ出した。
……2体だ。逃げたのは隊長格らしき1体と従順な部下の1体。そして逃げていく仲間に目もくれず堂々と立っているのは、撤退命令すら無視する不良悪魔が1体。
「へぇ、面白いじゃんかよ。勇者の剣の使い手と
どうやら戦うしかないらしい。
……さて、困ったぞ。
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