3.岩に刺さった伝説の聖剣を無理やり掘り出した話
これが追いはぎってやつか
腕相撲大会&魔物襲撃事件のあった日の翌日。
俺はミミナの街の冒険屋とかいう店にやってきていた。
「へいらっしゃい! ……なんだ坊主、見ねえ顔だな」
「ここが冒険屋で合ってるか?」
「ああ、合ってるが……」
冒険屋とは、その名の通り冒険や旅に必要な品々を扱っている店だ。実際、店先から奥までずらっと並んだ売り物は、服だったり杖だったり干物だったり斧だったりと多種多様だ。
この世界には冒険者というそのものズバリな職業はないらしいが、魔物ハンターだとか遺跡荒らしだとか、そういう感じのことを生業にしている奴はそれなりにいるらしい。そういう層に向けていろいろな物を売っているのが冒険屋という店なんだそうだ。
「なんだ、どっか遠出でもすんのか? それとも誰かのお使いか?」
「俺一人でちょっと冒険に出るんでな。入り用なものがあるんだ」
俺が冒険屋に来た理由は、そういった品物を買いに来たというのもあるが、一番の理由は別にある。
「入り用なもの……?」
「ああ、情報を買いに来た」
そう、情報だ。
本当は俺も今日一日くらいはゴロゴログータラしていたかった。それはまぎれもない事実だ。
だが、なんかこう、今朝までの雰囲気ではこの俺が若干有名人になってきてたし、次なんかあった時も活躍してくれるのか的なことを何回も聞かれたし、極めつけに勇者サマ御一行の一員なのではないかとかいう根も葉もない風評被害に近い噂が流れ始めていたのだ。
こうなったらもう旅に出るしかない。出るしかないのだ。
そういうわけで、まだ数日ミミナの街に留まるという勇者サマからとっとと距離を取るべく俺は旅立ちを決心したのだった。
そのついでとして、どうせ旅に出るならその途中で鉱脈とか遺跡とか掘り出せたらいい暇つぶしにもなるだろうし金も貯まるしいいことずくめだろう、ということでそういう情報がないか探していたのだ。
その流れでたどり着いたのが、この冒険屋だ。
冒険野郎ばかりを相手にしているからかその手の情報が集積しているらしく、裏メニュー的な扱いで冒険者向けの情報屋もやっている、とかいう情報を俺は掴んだのだ。
「というわけで情報だ。遺跡だとか鉱脈だとか、そういう金になりそうな場所の情報を買いたい」
だが、この冒険屋店主には俺の噂話は伝わっていないようだった。良いんだか悪いんだか。
「坊主が、一人で? 遺跡やら鉱脈やらの場所の情報を買いたいだと? 何の冗談だよ」
……話が伝わらないとそれはそれで面倒だな。
「冗談だと思いたいならそれでいいけどな。こっちは金の準備はできてんだぜ?」
すると、店主の目つきが少し真剣になった。
「ほう、いくら出せるんだ?」
「んー、そうだな……」
ぶっちゃけ相場というものが良く分からないが、今の手持ちが大銀貨30枚強だから出そうと思えば10枚くらいなら全然出せる範囲ではある。
とはいえ大量に出して何か所もの情報を貰ったところで、俺が全部回るとも限らない。俺だって自発的な発掘は初めてなわけで、飽きたりする可能性はあるといえばある。
「じゃあ、これならどのくらい買える?」
バンッと叩きつけたのは大銀貨が2枚。
「それなら二か所くらいだな」
んー、まあそれくらいならちょうどいいか。
「よし、いいだろう」
「決まりだな」
そんなこんなで情報と、ついでに冒険に必要そうな道具を買い揃えた俺は、徒歩でミミナの街を後にした。
本当は何かの乗り物で行きたかったのだが、ゴーレム馬車も普通の馬車も街道を外れた場所へは行きたがらないらしい。
なので諦めて歩くしかなかった。
ミミナから北に向かって伸びる街道を数時間歩き、そこから西に折れて数段スケールダウンした道に沿ってさらに歩く。その道の行き着く先が今回の目的地、ナトゥンの村だ。
「やれやれ……疲れないけどめんどいな」
現在地は街道から脇道に入って数十分ほど進んだ場所。道端にあったいい感じの岩に背中を預けて、俺は水筒の水で口を湿らせていた。
女神の仕業によってかなり頑丈になったらしい俺の体は、数時間歩き続けたくらいではやはり疲れを感じなかった。
だがそれはあくまで身体面の話。初めこそ街道を歩く冒険者という気分に酔って割りかしいい気持ちで歩いていた俺だったが、大して代わり映えのしない光景を見ながら一人で黙々と歩くのはなかなかに退屈だった。
「せめて話し相手でもいればな……」
まあ、そんな当てはないんだが。
そんな独り言を呟きながら、俺は貰った地図を広げて見る。中世風な世界にしてはやたらと正確っぽく見えるこの地図は、何でも実際に上空から見て描かれた地図らしい。
その地図によると、現在地はミミナから目的地のナトゥンの村までの大体三分の一の場所だ。
「……着くのは夕方くらい、か」
分かっていたことだが、やはり面倒だ。
そして面倒といえばもう一つ。
背もたれにしていた岩にさりげない仕草で耳を当てる。地面と岩を伝って聞こえてくるのは、数人分の鼓動と呼吸音。音の主たちは道の脇の森の中に潜んでいるようで、普通にしている分には気付かなかったのだが、暇すぎて遊び半分で索敵していたらなんか見つけてしまったというわけだ。
それ以降、何度も隙を見てはこうして聞き耳を立てているわけだが、その度ごとにそいつらは一定の距離を保っていた。
要するに、俺はこの数十分の間、何者かに後を付けられていた。
「心当たりはないんだよなぁ」
そう、後を追いかけられるならともかく、距離を保って付いてくるような連中に心当たりはない。
となれば、何やら良からぬ輩に獲物として狙われていると考えるのが妥当だろう。
そして、距離を取って付いてくるのは、なるべく人目につかないように街道から離れた場所で襲いたいというところだろう。
さて、どうするか。
「……寝たふりでもして出てきてもらうとするか」
そろり、そろりと足音が俺を取り囲む。足音は正面に3人と、右と左に距離を取って1人ずつの計5人。後方に人を置いていないのは、岩があるので逃げられないと踏んでいるのだろう。
やはり追いはぎとか人さらいとかその手の連中だったみたいだ。
そして5人は気配を殺してじりじりと包囲網を狭めてくる。もう目を開けたら見える位置まで来ているはずだ。
さて、先手を取られるのも厄介だしそろそろ動いてしまうとしよう。
「そこで止まれ」
声を上げた瞬間、5人の動きがビタっと止まる。
俺は背もたれにしていた岩から体を起こし、もったいつけて立ち上がって、5人を睨みつける。
ボロをまとったワイルドというか小汚い野郎どもだ。だが単に小汚いだけではなく、鉈みたいな刃物や棍棒を持つ手はいかにも荒事に慣れていそうなゴツいものだ。
「さっきから付け回して、一体何の用だ?」
すると、リーダー格らしき一人がニヤニヤと小汚い笑みを浮かべて答えた。
「なに、難しい用じゃねえ。持ち物全部置いていきな。そうしたら命は助けてやる」
予想的中。こいつらは追いはぎだ。
とりあえずハッタリかまして追い払うとしよう。真正面から戦うのはリスクあるしな。
「嫌だと言ったら力ずく、か……。それで? そんな武器で俺が倒せると思うのか?」
「おいおい、寝ぼけてんのかぁ? てめえの頭くらいならよぉ、簡単に真っ二つにできるんだ──ぜッ!」
スカァン! と追いはぎの持つ刃物が立ち木に叩きつけられる。
今の一撃で刃は木の幹にたっぷり5センチほども食い込んでいて、どんなに想像力に乏しいやつでもこれを食らえばやばいことになるのは容易に想像できるだろう。そして俺も、今のを脳天に食らったりしたら確実に命が危ない。
しかし、そんな様子はおくびにも出さず、俺は強者を演じてみせる。イメージは地上最強の生物だ。
「ほう、それで?」
「……はぁ?」
「その程度で俺を脅したつもりか?」
もったいつけて言いながら、俺はツルハシを手に取る。
俺はツルハシを片手で握り、頭上に高々と掲げ──背後の岩に向かって振り下ろす。
ズバッゴーン!!
岩は一撃で木っ端微塵に粉砕、跡形もなく消し飛んだ。
改めて5人の追いはぎに向き直ると、
「…………」
口の閉め方を忘れたような顔で呆然と立っていた。どうやら怯える以前に目の前の状況を飲み込みきれていないらしい。
仕方がないのでもう一発だ。今度は目の前の地面に叩き込んでやろう。
バガッゴーン!!
今度は地面が深々とえぐり取られて、そこにあった土は盛大な土埃となって舞い上がる。
5人の追いはぎはというと、頭から大量の土埃を被りながら微動だにしない。そろそろ尻尾巻いて逃げていくんじゃないかと思ってたんだが……まだ脅し足りないか?
「……さて、次はお前だ」
ツルハシを頭の上まで振り上げてそこまで言うと、ようやく。
「ひぃああぁぁぁぁあ!! バケモンだあぁぁぁ!! 逃げろおぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」
5人の追いはぎどもは一目散に逃げていった。
まったく、手のかかるやつらだ。
逃げていった追いはぎたちの背中を見送っていると、ふと足元に薄汚れた袋が落ちているのに気がついた。
「なんだこれ」
どうやらあの追いはぎたちの持ち物──というより、追いはぎが旅人から巻き上げた戦利品らしい。
……まあ、貰って行っても罪にはならないよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます