第4話

「おはよう」


 翌朝、僕の元にやってきた母さんは上機嫌だった。いつもなら朝食を乗せたトレイを持っているのに様子が違う。


「ドナーが見つかったの」

「え?」

「とても急なんだけど。今日、手術することになったわ」

「……今日」

「ええ。だから、ご飯は抜いてもらうわね」


 ドクンと心臓が大きく鼓動した。メルの歌を聴いたときとはまた違った風に、今度は嫌な胸騒ぎがしてならない。


「断ることはできますか」


 僕の問いかけに、母さんの表情が鬼のように豹変する。


「我儘言わないで!」

「……質問を、変えます。僕が、まだ生きたいと願ったら?」


 すると母さんは、大きく目を見開いたあと僕に近寄ってきて――。


「命を救うために戦うのよ」

「…………」

「大丈夫。あなたは、強い子だから」


 優しく抱きしめてきた貴女のことを僕は殺してやりたいと思った。


「わかりました」

「心配しないで。眠っている間に、すべて終わるから」

「はい」

「それじゃあ。あとで、迎えに来るから」


 ――はやく、ここから逃げなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る