第3話

「やっぱり来たな。今日のプリンは昨日より三倍でかいんだ。恐れ入ったか」


 返事もせずにプリンを観察する、メル。どうだ。驚いたろう?


「それが食べたかったら声を発しろ」


 まあ食い逃げ常習犯のメルに、そんなことを言っても無駄だな。そう思った次の瞬間。


 ――メルが、歌った。


 あいた口が塞がらない。ズシンと心に響く歌声だった。ふわりと軽い波長でいて、こんなにも力強い。君のどこにこんなパワーが蓄えられていたんだ?

 気づけば涙が頬を伝っていた。最高の見返りじゃないか、メル。君と話すことができなくてもいい。ずっと、こうして君の歌を聴いていたいよ。

 君の歌声を独り占めしたい。僕だけが聴いていられたらいいのに。

 一曲歌い終わるとスプーンを手にとり、いつもと変わらずプリンを食べ始めた。


「なんだよ。そんな特技あったなら教えてくれてもよかったのに」


 心臓が煩く音をたてて波打っている。これも負担になる行為にカウントされるだろうか。だったら僕は君の声に殺されても本望だと思う。


「願ったの」


 ――メルが、喋った。


「話せたのか」


 いや、話せることは知っていた。なんとか名前を聞き出すときに一往復だけ会話のキャッチボールを続けられたから。

 それでも。君が歌い、君と話ができていることが死ぬほど嬉しい。だから、当たり前のことを問いかけずにはいられないほど頭の中が真っ白になってしまったのだ。


「ええっと。願った……って?」

「あなたは明日、死んでしまう」


 やっと君と話せたと思ったらこれだ。


「死の予言か。穏やかじゃないな。たしかに僕は身体が丈夫でないらしいけど。命日が明日なんて、とても受け入れられない」

「生きて」

「……え?」


 メルは、この日初めてプリンを食べ終わっても暫く僕の部屋から出ていこうとしなかったんだ。

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