答え
あの怪盗ルビィ事件から10年。
冒頭にも書いたように、
私はやっと真相がわかったわけであるからこの話を書き記しているのである。
真相がわかったと言っても推測であるから百パーセント正しいかと言われればそんなことはないのだが、おそらく正しいと思う。
まず、私とユミに宝石の知識がなかったことが真相解明に至らなかったゆえんである。
私は今、宝石店である宝石を眺めている。
給料も10年前よりは増えて余裕が出てきた私は、宝石店という普段の私なら滅多に行かないところにふらっと足を踏み入れた。
目の前に展示されている宝石とその説明を見て、怪盗ルビィ事件が脳裏に蘇ったのである。
【アレキサンドライト
白熱灯などの人工照明下では赤色に、太陽光下では緑色に変色する。】
この宝石店での照明では、それは赤色になっていた。
それはまるで、質の劣るルビーのように見えるのだ。
そして私は事件の真相に至ったわけである。
まず、ユミがルビーと思って買った宝石はおそらく実はアレキサンドライトであった。
このように考えれば、ユミが"値段のわりに質の悪いルビー"と言っていたこととも辻褄があう。
このアレキサンドライトは、意図してルビーと間違われたのではなく単なる店員のミスだったのだろう。
もしかしたら、新米のバイトくんとかが宝石に関する知識があまりなく、何かしらの拍子に間違えてしまったのかもしれない。
そしてその宝石店は、わりとすぐに過ちに気づいたのだと思う。
間違えてルビーではなくアレキサンドライトを売ってしまった。宝石は高価なものだ。
その宝石店は焦ったに違いない。
そして、思い付いた苦肉の策が怪盗ルビィというものであった。
宝石店の人が気を付けなければいけないことは、ユミに宝石を太陽光に晒させないことだ。
太陽光のもとで宝石を出されては、緑に変色し、すぐにアレキサンドライトだとばれてしまうから。
だから、身につけたら危害を加えると言ったのだ。
そうすれば家の中で人工照明のもとで赤色のままだろうし、予告状が届いている以上、家の奥のほう、__つまり太陽光などは決して当たらないところ__に保管するであろうと思ったのだろう。
そして、それは見事に成功した。
ここまでくれば犯人は自ずと分かる。
ずばり、宝石店の人だ。
ユミがきっと購入時に、1週間後にリサイタルがあるとかなんとか言ったのだろう。
だからリサイタルの存在も知っていた。
住所だって、購入時に書かされることもあるかもしれないし、もしユミがそこの宝石店の会員などであれば1発で住所などはわかる。
だからユミに予告状も送れた。
ユミが宝石を購入したことを、ユミの家族と恋人だけでなく宝石店の人も知っていることに10年前に気づけなかったのは迂闊だった。
そして、最後にユミと私を襲い、ユミの宝石を本物のルビーにすり替えて終わりということだ。
はあはあ、ここまで面倒くさくしてリスクを背負う必要はあったのか甚だ疑問であるが、宝石店のプライドかなにかがあったのだろう。
実際、ユミが宝石を購入する店はなかなか名が知れているところだったと思う。
つまり、ある意味ではニセモノのルビーが盗まれ、ホンモノのルビーにすり変わっていたということだ。
つまり、怪盗ルビィ事件は、ただ単に宝石店がミスを隠蔽するためだけに画策した事件なのであった。
わかってしまえばなんてことないことである。
怪盗ルビィなるものが本当にはいないことには少し残念だが、(不思議な怪盗がいるものだと、私は少しワクワクしていたのである)なかなか面白いではないか。
私は謎の解決に満足し、アレキサンドライトをひとつ購入した。
太陽光に当てたら緑色に変化した。
うん。
これは、本物のアレキサンドライトだ。
怪盗アレキサンドライトが現れることはないだろう・・・。
損する怪盗 けしごム @eat
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