7-5
一階に下りると、今度は私たち西側が有利。
だってこのショッピングモールの一階、西側は小物の店とかでいっぱいだけど東側はスーパー。スーパーでクリスマスプレゼントを買う人もあんまりいないはず。
一階西側のサンタを根こそぎ狩って、タブレットを見ると……
「62780円対93450円……まだこっちが負けてるよ」
三階の本対おもちゃの差が大きかった。ツグミちゃんは、東側を見ながらため息。
「攻めに出るしかないわね」
私はツグミちゃんにうなずいた。敵は時間切れを待つだけでも勝てる。こっちから攻めないかぎり、逆転なんかできない。
「敵の居場所は、きっとスタート地点の近くよ。待ち構えるならそこしかないわ」
ツグミちゃんがいうとおり。そこなら、大仁君たちはやられても再スタートして戦場へたどりつくまでの時間が短くなる。
「行こう。これが最後の戦いだよ!」
私たちは三階東側に急いだ。試合終了まで、あと十分くらいしかない。
私がこの大会に参加したのは、ツグミちゃんを助けるため。そのツグミちゃんが自分で逃げてきたんだから、目的が一つ消えたのかもしれない。
だからって大仁君を優勝させるわけにはいかない。阻止しないと、私自身が嫁問題で困る。
たどりついた三階東側は、来て楽しい場所。私か好きなおもちゃもある。
文房具もあって、いつも私が使っているのよりかわいいデザインのものもたくさん。あの墨汁、入れ物にネコの絵が付いていてめずらしい。
でも、やっぱり今は楽しんでいられない。
普段なら大勢いるお客さんは一人もいない。その代わり、腹の立つ人たちがいる。
「よく来たな!」
いつものむかつく声。
おもちゃ売り場をつらぬく大通りの先で、大仁君が仁王立ちしていた。
その横には元大臣もいる。周りには敵ドッジロイドもいる。
「いつもおれにやられてたバカココが抵抗しやがって。返り討ちにしてやる!」
大仁君たちがボールを構えた。私たちもだ。そして、大仁君がニヤリと笑った。
「なんてな! 真面目に勝負なんてするかよ!」
私たちの横手にある棚の陰から敵ドッジロイドが飛び出してきた。みんなボールを持っている。
「手下が何人か隠れてたみたいだね。大仁君のそばにいるドッジロイドが少なかったし」
「予想どおりだったわね」
私とツグミちゃんがいい合っているなか、後ろからボールが飛んできた。
私たちの後ろじゃなくて、隠れていた敵ドッジロイドの後ろから。敵ドッジロイド何人かにぶつけて、狙撃を中断させる。
「お前ら! 気づかなかったのか!」
大仁君は怒鳴って、あぜんとした顔になった。狙撃者を狙撃したものの姿におどろいたみたい。
「サルかよ?」
「ドッジザルか。そのようなものを隠していたとはな」
元大臣は舌打ちしていた。
三階へ逃げる途中の階段で攻撃してくれたのもこの子たち四匹。ドッジロイドより自力で判断する力が強いし、隠れるのもうまい。走るのも速く、小さいから当てられにくい。
扱いはむずかしいけど……さっきはなめられたり甘がみされたりで大変だった。「敵を追い払っておりこう!」って一匹ずつなでなでしてあげるまでやめてくれなかった。
そういえば、審判は人間以外のメンバーを「その他メンバー」っていっていた。「ドッジロイドメンバー」じゃない。人間以外なら何でもOKだったってことだ。
「くだらねえ!」
大仁君たちがボールを投げてくる。私たちも投げ返す。普通のドッジボールに近づいたかも。
ドッジロイドが減っていく。ドッジザルも、ドッジロイドや大仁君は戸惑わせることができたけど元大臣はムリ。狙いすました攻撃にやられていく。
時間がたってこの場にいる人が減ると、所持金は少ない人数に集まっていく。当てた人が所持金を取るルールだし。
長引くと私たちは不利。ここへ来る前に考えていたとおり、スタート地点から戻ってくるのは私たちより大仁君たちの方がずっと早くなる。
後ろで物音が聞こえた。振り返ると、敵ドッジロイドがボールを私に投げようとしていた。
「させるわけないでしょ!」
ツグミちゃんは私より早く気づいていて、その敵ドッジロイドにボールを命中させた。でも。
「この裏切りものが!」
大仁君の投げたボールがツグミちゃんにヒット。
「よくもツグミちゃんを!」
私はすぐさま大仁君に投げつけた。大仁君は投げた直後だったので受け止められず、アウト。
「これで……」
「まだ終わっていませんぞ!」
野太い声がひびく。元大臣が私にボールを投げるところだった。
よけられない! 私は身を固くしたけど、ぶつけられることはなかった。
私の前に飛び込んだ人が、代わりにボールを食らったからだ。その場に倒れ込む。
「海道君……ケガしてるのに!」
そういえば、ツグミちゃんは海道君の家に寄ってきたんだっけ。海道君はそのとき無茶をいってついてきていたんだろう。
「一番やりたいのはココを守ることだと、ぼくはいった……盾くらいは、できる」
ケガは全然治っていないのに。体中包帯だらけなのに。
「ケガ人だろう。そのようなことは一度できるかどうかだ」
元大臣は鼻で笑うだけ。さっき当てられた大仁君は、スタート地点に戻ろうとせず怒鳴る。
「人間三人だ! 反則!」
ホイッスルは鳴らない。どこからともなく現れた審判が答える。
「試合前、ハンデキャップとして三人にしていいといっていた。よってセーフ!」
大仁君は、開いた口がふさがらなくなってしまった。やっぱり審判は公平!
「だからってな……!」
大仁君はすぐ正気に戻って食い下がろうとしたけど、また言葉を止めた。
ボールを後ろから当てられて倒れたせいだ。仲間のはずの、あるいは親のはずの元大臣に。
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