7-4

 私たちは急いでCD売り場のサンタを倒して、二階に下りた。この階では服がいろいろ売られている。西側でも東側でも。

 さっそくサンタをさがし始めた。辺りは静まりかえっていて人の気配がない。不気味だ……

「大仁君たち、もう一階まで行ったのかな」

 辺りを注意深く見ながら歩いて、すぐに首をひねった。

「おかしい。サンタがいないよ。おもちゃや本じゃなくて服を欲しがる子もいるのに」

 私は気づいたことがあって、杭を打たれたように立ち止まった。もっと早く気づいていれば!

「やっと来たか!」

 通路のわき道から大仁君が駆けだしてきた。

「お前たちがあまりにも遅えんで、西側にいたサンタも狩っておいたぞ!」

 大仁君たちがおそいかかってこなかったのは、先に二階へ下りてサンタを狩りつくすため。待ち構えておくこともできる。

「試合終了まであと四十分ほどありますが、姫たちが口ほどにもないことはよくわかりました。ここで所持金を奪い、あきらめさせてあげましょう」

 柱や棚の陰から元大臣と敵ドッジロイドも出てきた。私たちをぐるりと囲んでいる。

「やれ!」

 大仁君の号令と同時に、敵ドッジロイドがボールを投げつけてきた。

 私たちはよけたり受け止めたり。でも、囲まれているせいでぶつけられる味方ドッジロイドも何人かいた。

 当てられた味方ドッジロイドが走ってスタート地点に戻る。でも、すぐに戻ってこられるわけじゃない。ペナルティの一分があるし、ドッジロイドは人間より走るのが遅い。

「いっぺん逃げよう!」

 私は囲みが一番薄いところを見つけて、そこにいる敵ドッジロイドへボールをぶつけた。囲みがやぶれた隙に、味方ドッジロイドたちと駆け抜ける。

 来た道を戻る。大仁君たちは追ってくる。ボールも投げてくる。こっちはますます数を減らされる。このルールだと全滅しても負けじゃないけど、所持金を奪われれば不利になる。

 三階に上がる階段までたどり着いた。私は隣のエスカレーターに踏み込もうとして中止。階段を選ぶ。エスカレーターだと一方向にしか動けないから、いざというとき逃げにくい。

「もう終わりだ!」

 大仁君は、私たちが階段を上っている途中でも投げつけようとしていた。勝ちほこった様子で、私に狙いを定めている。

 でも、その腕にボールが当たって自分のボールを落とした。

(今のボール、どこから来た? 上から? ドッジロイドが戻ってきたにしては早い)

 階段の踊り場まで下りてきたのは、ドッジロイドじゃなかった。

「ツグミちゃん?」

 私は自分の目を疑った。そうなっているのは大仁君も同じ。

「どうしてお前がバカココのユニフォームを着てるんだ!」

 ツグミちゃんは、大仁君をにらみながら答えた。

「あたしはあんたから閉じ込められてた。どのチームにも入ってなかったから、ココのチームに飛び入り参加できる!」

「何だと! おれの子分のくせに!」

 大仁君は、持っていたボールをツグミちゃんに投げつけた。ツグミちゃんは、軽く受け止めた。

「当てられた人が、わざと投げつけたわね。試合のひどい妨害よ」

 ピッ! とホイッスル。どこかから現れた審判が大仁君を指さす。

「ファール! 羽場はばチームからのボール!」

 館内放送も響く。

『次のホイッスルを放送するまで試合中断。全選手、その場で止まるように。大仁チームの選手はボールをその場に置くこと』

 元大臣が舌打ちして、大仁君をにらむ。いらだった顔の大仁君も敵ドッジロイドも、その場にボールを置く。逆に、私たちはみんなボールを持てる。

「これは大チャンスね」

 ツグミちゃんはにっかり笑ったけど、私は首をひねったまま。そばに行って顔をまじまじ見る。

「ツグミちゃん、孤児院のことがあるんでしょ? 私の味方できないんでしょ?」

「目が覚めたわ」

 ポケットから出してみせたのは手紙。送られてきた場所はドッジ王国。

 ツグミちゃんは、私にしか聞こえないくらいの声で答えた。

「孤児院からの手紙、たくさん来てたけどドラ息子が全部隠してて……どれにもこう書いてあった。『自分のしたいことをしなさい』って」

 孤児院の人たちも、ツグミちゃんの心配をしていたみたい。

「あたし、ライガが持ってきてくれなかったら気づかないままだった。隠し場所をさがして取ってくるように指示してくれたんでしょ?」

 指示なんて知らない――私はそういいかけて、気づいた。

 いつか海道君がツグミちゃんに「ライガに伝言」って渡していた手紙! あれがそうだったに違いない。本当にナイスアシストだよ。

「そもそも、助けられるのを待つだけなんてあたしに合わない。孤児院のことは後で考える!」

 ツグミちゃんはもう次のボールを拾っていて、てんっとその場でついた。私と残りの味方ドッジロイドもボールを拾って構える。

 そして、ホイッスル。私もツグミちゃんも味方ドッジロイドも、みんなボールを元大臣たちに投げつけた。大仁君は当てられたところなので、狙う必要がない。

 元大臣たちはさっき置いたボールを拾わず、ひとまず回避に集中。私とツグミちゃんは、それぞれ敵ドッジロイド一人ずつに当てた。

 イライラした顔の大仁君がスタート地点に走る。元大臣たちは今度こそボールを拾おうとする。

 その前に、またボールが元大臣たちに飛んだ。今度は一個じゃなくいくつも。どこからともなく来たせいか完全に元大臣たちへの不意打ちになって、敵ドッジロイド二人に命中。

「何ごとだ。この場は引き、体勢を立て直す!」

 元大臣の反応は早かった。残った敵ドッジロイドを連れて、すぐに二階東側の奥へ逃げていく。

「逃がさないよ!」

 私は元大臣にボールを投げた。元大臣はギリギリでかわして、また走る。

 追いかけていけば……私はそんな考えを止めた。こっちだって全滅しかけて疲れている。

「ドッジロイド何人かと大仁君を倒したんだし、差が縮まって……こっちが46230円で、あっちが85790円? あんまり変わらない?」

 きっと元大臣が所持金をほとんど抱えている。強い選手に集めた方が取られにくいからだ。

 さっきの一球が当たっていればよかった。私は惜しく思いながら、元大臣がいたところを見た。

 何か転がっている。元大臣が落とした? 駆け寄って拾ってみると、小さな布袋だった。

「白いヒツジの印が付いてる……おじさんなのにかわいい趣味があるのかな」

 ポケットにねじ込んでから振り返ると、ツグミちゃんが私を複雑な顔で見つめていた。

「ココ……いろんなことを話したいんだけど、今は……」

 私はうなずいた。

「うん。まずは試合に勝とう!」

 ツグミちゃんもうなずいてくれた。試合時間は、やっと半分を過ぎたところ。

「そういえば、ドッジロイドのみんな! さっきは元大臣をひるませてすごかったね!」

 私はドッジロイドたちに話しかけた。人間じゃないけど、そうせずにいられない。

「さっき投げたの、ドッジロイドじゃないわよ。ここへ来る前に、海道の家に寄って連れてきたの。ドッジロイドより頼りになるものを使わないなんて、もったいないでしょ」

 首をかしげた私に、人と似た形をしたものたちが飛びかかってきた!

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