7-3

 ついに決勝戦開始!

 それぞれのスタート地点はクジ引きで決めた。私たちは三階の西端。大仁君たちは三階の東端。東西に長い建物の端と端だ。

 私たちがスタートした辺りには本売り場がある。プレゼントに本を欲しがる人もいるし、きっとサンタが隠れている。

 でも、あっちがスタートした辺りにはおもちゃ売り場がある。本とおもちゃのどっちがプレゼントとして高いかは、考えるまでもない。

 最初から負けているんじゃ……私は不安な気持ちを無理やり追い払った。

「クジ引きで負けても、試合内容で勝てばいい!」

 ドッジロイドを連れて本売り場に踏み込むと、さっそく赤い人発見! 白い袋を持っているし、白いヒゲもあるし、サンタに間違いない。

「狙って!」

 私はドッジロイドたちに指示。ドッジロイドたちはそばにあるボールへ駆け寄って、拾って、サンタに投げる!

 サンタの方も、簡単にはぶつけられてくれない。身をかわして、ボールは本棚に命中。表紙を上にしてならべられていた本が散らばる。

 お店の皆さんごめんって気持ちを持てあましているうちに、サンタは逃げてしまった。

(本売り場へ入る前にやれることがあったんだ)

 廊下に落ちていたボールをドッジロイドに拾わせておくとか。そうしていれば、サンタと会った瞬間に投げつけられた。

 お父さんやお母さんから聞いた話によると、サンタは元いた売り場から出られない。つまり、大仁君たちがいるところまで逃げてしまうことはない。そこだけは安心できる。

(海道君がいれば、もっとうまく指示できたのかな)

 そう思いついたけど、暗く考えて落ち込んでいたらダメだ。

「みんな、ボールを拾って! 次こそさっきのサンタに当てるよ!」

 私がいうと、ドッジロイドたちはボールを拾ってくれた。

 みんなで本売り場の奥に進むと、いた! サンタが二人! ここのサンタは一人じゃなかった。

「投げて!」

 ドッジロイドたちがボールを投げる。ただし、狙ったのはサンタの片方だけ。そっちには当てられたけど、もう一人には逃げられた。

「手分けして両方を狙えばいいのに……私が『さっきのサンタに当てる』っていったからか」

 ドッジロイドの指示がこんなにむずかしいとは思っていなかった。特に今回はいつも以上に変なドッジだし、「普通のドッジっぽくやって」程度の説明じゃ足りない。

 命令の仕方も勝負を左右する。大仁君たちがこのルールを選んだ理由には、命令役のいない私たちが困る=自分たちが有利! って計算もあるのかも。

 ものすごく暗い気分になってきたけど、今はじっとしていられない。


 私はドッジロイドに細かく指示してから本売り場のサンタ全員に当てて、隣のCD売り場へ。

 本ならボールをぶつけても棚でならべなおして終わりかもしれない。でも、CDは割れちゃったりするよね……ショッピングモールの人たちが試合場として使わせてくれたのは「壊してもOK」って考えがあるからかもしれないけど、申し訳ない気になってくる。

「今の合計額は……」

 私は、試合前に審判から渡された小型タブレットをポケットから出した。チームのリーダーは、これで現在の合計額を確認できる。

「こっち2870円で、あっち43560円? すごく差が付いてるよ」

 本とおもちゃじゃ金額が違う、なんてことだけが原因じゃない。こっちはドッジロイドへの命令に手こずって、当てるのに時間がかかった。でも、大仁君たちは……

「やっちまえパパ!」

 東側からの声に目を引かれると、予想は確信に変わった。

 大仁君の歓声を浴びている元大臣は、両手それぞれにボールを持っている。

 右手でボールを投げると、その先にサンタ。よけようとしても狙いは正確で、あっさり命中。

 間を開けず、左手でも投げる。他のサンタにも当てて、一度に二人のサンタを討ち取った。

 大仁君は私とタブレットの画面をわざとらしく見比べて、いつもどおりにニヤニヤする。

「ちんまい金額しか集められねえのか? 苦労してんなぁ!」

 ムカッとしたけど今は他のことが気になった。サンタの次は私たち? 所持金を奪いに出る?

 大仁君も元大臣も私たちに向かってくる様子はなかった。どうせ倒すなら所持金を集めさせてからの方がいいって考え?

「せいぜいがんばれよ!」

 大仁君たちは中央の階段で二階に下りていった。私はいらつきながら振り返った。

「ドッジロイドのみんな、ここのサンタを早くさがそう!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る