7-2
人垣を割って現れたのは、一回戦で試合したライガ。後ろには心細そうな顔のミイもいた。
「何いってんだてめえは! おれの子分のくせに!」
大仁君が、いつも以上にギャンギャン怒鳴る。
ライガは笑いながら見返す。試合中のにやついた感じじゃなく、自分にあきれている雰囲気。
「姫サンには借りができたんでな」
ミイは後ろで余計あわてる。「この人にそんな態度でいいの?」っていいたいんだと思う。
ライガはミイに振り返らないけど、気持ちは察しているみたい。頭をわしわしなでた。
「ぼっちゃんよぉ。おれは一回戦で負けたザコだぜ? 敵に回っても大したことないだろ?」
「わたくしも、姫様に協力いたしますわ!」
また歩み出てくる人がいた。ショウを連れたリリナ。
「姫様のお仲間が出られなくなったのは、わたくしたちと試合をしたせいです。わたくしが代わりをして当然ですわ!」
一昨日と違って、ビクビクした様子はない。
「それに、家宝のことを教えていただいて助かりましたもの」
ジロリと、大仁君たちをにらみつける。
人間不信なのに、海道君の話を信じてくれた? 私がそう思ったって気づいたのか、リリナはほほ笑みかけてきた。
「すばらしい方ですわね。あそこまでなさる方が嘘をつくなんて思えませんわ」
このにこやかな姿こそ、本当のリリナなのかもしれない。私はそんな気がした。
「あるじにお仕えする身としても、尊敬すべき行動でした」
リリナの後ろにいるショウは、満足げにうなずいていた。
大仁君はイラッとした顔で視線を審判に動かす。審判はすぐに答えた。
「どちらも参加は認められない!」
「何だと?」
「嘘ですわ!」
ライガとリリナに対して、審判は首を横に振る。
「君たちは他のチームの選手として参加した!」
大仁君は、うれしそうに大笑い。
「どうだ! 審判はおれの味方だ!」
審判、そこは空気を読んで私たちに味方してよ? 敵が仲間になるとか、燃える展開だよ?
ライガもリリナも大仁君をギリギリとにらむ。大仁君は、そんなふうに見られることをむしろ気持ちよさそうにしていた。
「ほれ、審判。試合のルールを説明しろ!」
いわれた審判は、すぐに話を始めた。
「今回はクリスマスドッジ!」
春だから季節外れだけど、私は昔聞いた話をすぐ思い出した。審判の説明はそのとおりのこと。
「コートはこのショッピングモール内全て。各売り場で逃げ回っているサンタにボールを当てろ。持っていたプレゼントの金額が、当てた選手の所持金となる!」
うーむ。何だかもうドッジじゃないな……
「相手チームの選手に当てた場合、その所持金を奪える。当てられた選手は、自チームのスタート地点に戻って一分の停止をはさんで再出発となる!」
つまり、クリスマスドッジに「外野に出る」「内野がいなくなって全滅」って要素はない。
「試合時間は六十分。長時間に及ぶ試合であるため、再出発のときにひかえの選手と交代することを許可する!」
こっちは私一人とドッジロイド十一人ぴったりしかいないので、交代できない。
一方、大仁君と元大臣は後ろにドッジロイドがぞろぞろいる。ヒーロー番組の悪役が連れているザコ戦闘員の群れみたいだ。
「終了時に合計額の高かった側が勝利となる! なお、ボールはコート内に配置してある!」
このイベント広場に来たとき、一階の売り場でボールがいくつも転がっているところを見た。
思い出しながら辺りを見ていると、ライガとリリナが視界に入った。両方とも苦い顔。ミイとショウもだ。私は四人に近づいて、声をかけた。
「その気持ちだけで十分だよ」
私は自分が心細い状態だって思った。でも、違った。そう考えるだけで、勇気がわいてくるような気分になれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます