6-3
海道君は少しだけ笑った。
「いいアイデアだ。ピラニア対策になるし、あっちは逆に不利だ」
「何をゴチャゴチャやってんだ! 当てられたザコはとっとと出ろ!」
大仁君がヤジを飛ばしてきて、私は今度こそ外野に出た。
試合再開。海道君がボールを投げる。リリナたちを狙うんじゃなくて、外野へのパス。私は止められることなくつかんだ。
私はすぐさま投げた。リリナたちに取られるかどうかギリギリのコースで内野の味方ドッジロイドへパス。味方ドッジロイドも私にパス。
ボールが私たちの内野と外野を行ったり来たり。リリナは高笑いした。
「わたくしたちに取られるのが怖くて、狙えませんの?」
「怖いのは取られることじゃないよ」
パスしっぱなしはできない。ドッジは五回目までに攻撃しないといけない。
だから私は敵ドッジロイドを狙ったような勢いで投げて内野にパス。これでまた一回目から。ちょっとずるいけど作戦だ。今度は別の味方ドッジロイドが取って、私にパス。
何度も続けたせいか、リリナがイラッとした顔を始めた。
「訳のわからないことを!」
「お嬢様! 今すぐその陣形を解いてください! 姫たちの作戦です!」
外野にいるショウは私たちの狙いに気づいたみたい。でもリリナはギロッとにらむだけ。
「嘘ですわ! きっとただの時間かせぎですわ!」
ハズレ。こっちが負けているのに時間かせぎなんかしないよ。
繰り返した後、海道君がリリナたちを狙って投げた! 照準を合わせているのは、リリナを囲んでいる敵ドッジロイドの一人。
あの陣形には弱点がある。敵ドッジロイド全員がリリナに背中を向けていること――つまり、投げつける人から見ると中途半端に横向きのドッジロイドがいることになる。
対戦相手がピラニアに気を散らされて狙いイマイチなら、隙があってもいいかもしれない。でも、今の私たちは違う。
海道君のボールは狙いどおりに命中。横向きの敵ドッジロイドをアウトにさせた。七対十だ。
「横担当のベティちゃんにずるいですわ!」
「ずるいと思うなら、普通の横並びにしろ」
海道君たちは普通に全員でボールの方を向いている。でもピラニアからおそわれることはない。
ピラニアはボールのにおいを追ってくる。それなら、連続してパスしたら?
答えはこれ。ピラニアがボールについてこられなくなって、私たちは怖がることなく試合できる、だ。名づけてピンポン作戦!
「嘘ですわ! わたくしたちが陣形を解いた途端に、作戦を変えるのでしょう!」
リリナは敵ドッジロイドに囲まれたままで海道君へボールを投げつけた。海道君は受け止めて、また私にパス。さっき私が指示したとおりに動いてくれている。
私はまた内野の海道君や味方ドッジロイドとパスし合った。ピラニアはついてこられない。その途中で、内野の味方ドッジロイドが敵ドッジロイドを倒した。七対九。追いついてきた!
「負けるわけにはいきませんわ!」
リリナは闘志を燃やしていた。むしろ前より炎がふくれあがっている?
「我が家に伝わる宝、エターナルダイヤ……借金を返すまでと元大臣に取られましたが、姫を倒せばすぐに返してもらえる約束! そのためにも!」
ツグミちゃんと同じようなもの。リリナも元大臣に弱みを握られていた。だからビクビクしていても日本まで来た。
リリナの投げたボールを海道君たちがかわした。受け止めたショウはリリナにパス。リリナはまた海道君たちを狙う。
海道君たちがかわして、ボールは外野へ。ショウが狙ったのは海道君。
「サギの相手は元大臣か。燃えているところ悪いが」
海道君は、かわしながら話す。
「そのダイヤのことなら聞いたことがある。もう元大臣の手にないぞ」
リリナは取ったボールを投げつけようとしたけど、手を止めた。
「嘘ですわ!」
「本当だ。二年前、元大臣は金が必要でアメリカの金持ちに売った。今は首飾りに加工されている」
一瞬送れて投げつけたボールは、迷いのせいか勢いに欠けていた。海道君が止める。
「王家の監視機関が調べたことだ。間違いない」
「二年前っていえば、大仁君が引っ越してきたとき?」
つぶやいた私に、海道君からのパス。
「大きなお屋敷を建てたり子分におごったりしてたお金、そこから出てたの?」
私は内野にパス。またピンポン開始。
リリナは目が泳いでしまっている。
自分でも「嘘じゃない」ってわかるのかも。日本に来て、大仁君のお屋敷を見たはずだし。「嘘ですわ」って何度もいっているけど、大事なところでだまされていた。
「そろそろ時間だ! そっちから当てて、同点に持ち込め!」
海道君が私にパスしながらさけんだ。私はリリナたちに狙いを定めた。
足がチクリとした。私が投げたボールは、痛みのせいでハンパなスピードになってしまった。リリナが受け止める。
足を見ると、すぐ近くをピラニアが泳いでいた。ボールを追っていったけど、さっきまでより遅い? 後ろ髪を引かれているみたい。
しまった! 私は全身が凍ったように感じた。
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