6-2

 私はボールを拾ったところだったので、チラッと見ることができた。緑だったり赤だったりして、手に乗るくらいの大きさで、たくさんで……

「それで来たか! ココ、早く投げろ!」

 海道君が急にあせり始めたから、私はあわてて投げた。外野にパスしようとしたけど、リリナはジャンプしてカット。

 すぐに投げつけてきた。リリナが急いで投げたお陰か、味方ドッジロイドが軽々と受け止めた。

 その味方ドッジロイドに、小さなものが何匹も泳いでいく。

 水中で、飛びはねて水上で、味方ドッジロイドにかみつく。その味方ドッジロイドはボールを敵ドッジロイドに投げたけど、まとわりつかれたせいでうまくいかなかった。止められて、投げつけられて、アウト。九対十一。

 ああいう形の生き物、テレビで見たことがある。ペット番組じゃない。ジャングルが出てくる番組で。海道君も目を見開いている。

「やっぱりロマノビピラニアだ! まさか王国の外に持ち出すとは!」

「ピラニアって、肉食の魚の? 王国にもいるの?」

「そこまで心配しなくていい。ピラニアと似ていてピラニアみたいに凶暴だからそう呼ばれているだけで、本物のピラニアじゃない」

「ピラニアみたいに凶暴なら心配になるよ!」

 私はそうさけぶしかなかった。プールサイドでは大仁君がバカ笑いしている。

「おれが特別に教えてやろう! 試合に使ってるボールはロマノビピラニアの好きなにおいを出す仕組みだ! ボールを持ってるとかまれるぞ! 長くかまれると、取れなくなるかもなぁ?」

 アルマジロドッジと違ってかまれてもアウトにならねえが、と大仁君は付け加えた。ちっとも安心できない。

 ボールを持っているとかまれるなら、ボールを持たなければいい……ってわけにはいかない。ボールを持たなかったら投げられないので、敵を減らす手段がなくなってしまう。

 さっき当てられた味方ドッジロイドはもう外野に出ている。ボールは水面にプカプカ浮いていて、その下にピラニアが集まっていた。ときどきはねて、ボールにかみつこうとする。

 早く拾って投げないと、ピラニアが来て取りにくくなる。のんびりなドッジだって気がしていたけど、急ぎ足のドッジに変わってしまった。

 私が戸惑っていると、海道君がボールのそばで水をかいた。それだけでピラニアたちは逃げていく。怖いくせに怖がりなんだろうか。

 ピラニアがいなくなった隙に海道君が拾って、試合再開。海道君は外野にパスしようとしたけど、ピラニアに警戒して急いだせいかスピードが今一つ。リリナにカットされた。

「何それ」

 私はリリナたちがやっていることに首をかしげた。

 受け止めたリリナを、敵ドッジロイドたちがぐるりと囲んでいた。みんなリリナに背中を向けて、手で水をバシャバシャやる。

 ピラニアたちはリリナに近づこうとする。でも敵ドッジロイドのバシャバシャに追い払われる。

「これこそ、ピラニアに対抗できる最強の陣形ですわ!」

 リリナが私たちに投げつけてきた。味方ドッジロイドの一人がキャッチすると、すぐにピラニアが集まってきた。

「長くかまれると、表面の防水加工が壊れる! 急げ!」

 海道君がさけんだのとほぼ同時に、狙われた味方ドッジロイドがボールをリリナたちに投げつけた。でも急ぎすぎたせいで狙いもスピードも今一つ。リリナに受け止められた。

「やはり、ドッジロイドだけがわたくしの味方ですわ!」

 リリナが私たちに投げてきた。守られているから、こっちと違って狙いをバッチリ定められるし力も込められる。受け止めようとして失敗した味方ドッジロイドがアウト。八対十一だ。

 海道君はボールを外野へ送った。外野にいた味方ドッジロイドがリリナの背中を狙う。

「この陣形、防御からの攻撃も可能ですわよ?」

 敵ドッジロイドはリリナをぐるりと囲んでいるから、後ろ向きのもいる。

 その敵ドッジロイドがボールを取ろうとして、失敗? 高くはね上げた。

 いや、ミスじゃない。リリナがボールをキャッチ。

 昼休みにやるドッジなら、内野同士や外野同士のパスはOK。公式戦ならアウト。

 取りそこねたボールを他のメンバーが拾ってアシストするのは、昼休みでも公式戦でもセーフ。はね上げたのは、失敗のふりをしてリリナにパスしたかったから。

「フレディちゃん、よくやりましたわ!」

 リリナがドッジロイドをほめながら狙ったのは、私。

 今の私なら、ボールを軽く受け止められる。でも、これをつかんだらピラニアが来る?

 私は余計な想像をしたせいで取りそこねた。アウトだ。七対十一。差が広がってきた。

「ごめん……」

「心配するな。早く戻ってこい」

 私はがっくり来ながら外野へ――出ようとして立ち止まった。引き返して、海道君に耳打ち。

「当てられちゃったなら、逆に……」

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