二回戦 VS与那城チーム
6-1
翌日、二回戦があるってことで私たちが集められたのは町内のスポーツセンター。
なんと貸し切り。
私は着いてすぐにセンター内を見渡したけど、ツグミちゃんの姿はなかった。きっと今日も閉じ込められている。
そうしているうちに大会係員から呼び止められて、いわれた言葉は「水着を借りてください」。私は「ラッキー!」と思った。
「二回戦はプールドッジ! 制限時間は十分!」
審判がプールサイドで告げた。私たちも対戦相手も、もうプールの中に入っている。
もちろん水着姿。体育の授業で使うような水着だから、特にかわいかったりはしない。ドッジロイドは防水加工をされているから平気らしい。
水かさは少なめで、ひざがつかるくらい。温水じゃないけど、動いているうちに冷たさを忘れそう。ラインは底にテープではってある。
(プールドッジは予習ずみ!)
私は心の中でブイサイン。練習には大変なのもあったけど、やっておいてよかった!
問題は、対戦相手の
「嘘ですわ!」
敵コートにいる女子が、いきなり審判にさけんだ。
背は私より少し高くて、体は全体的に細い。着替える前は白くて丈の長いワンピース姿で、長くサラサラの髪をなびかせていて、お嬢様っぽく見えたのに。
「プールドッジだといって、わたくしたちをだますつもりでしょう! 試合中に底がガバッと開いて、どこかに流してしまうとか!」
何、そのびっくりプール。
「皆さん、リリナお嬢様が申し訳ありません」
後ろにひかえていた男子が、審判や私たちに頭を下げる。こっちは私よりもずっと背が高い。黒髪を短くしていて、着替える前は燕尾服姿だった。
「おだまりなさい、ショウ。執事見習いの分際で」
怒っていたお嬢様――リリナは、執事見習いのショウをきつい目でにらんだ。でも迫力があったのはその一瞬だけ。オロオロと辺りを見渡し始めた。
「元大臣のご子息に誘われて来てしまいましたけど、やはり大丈夫かどうかわかりませんわ。今までよりひどい状況になるかも……ここは普通のプールではないとか。大きなおなべのような仕組みで、今は冷たい水がだんだん熱くなってわたくしたちをゆでてしまい……!」
「普通のスポーツセンターだと思われます。おかしな仕掛けがあっては営業できないかと」
ショウはまた審判や私たちに頭を下げる。
「二年前、リリナお嬢様のご両親に経営される与那城財閥がひどいサギ事件に巻き込まれてしまったのです。それ以来、リリナお嬢様は人間不信気味なのです」
これじゃあ、不信っていうより不審だよ。どうして日本に来たんだろう。びくつく子なら閉じこもりがちになる気がする。
私は気になったけど、一度心の奥に押し込んだ。迷っていたら勝てない。勝てないとツグミちゃんを助けられない。
メンバーは人間二人と他十人。こっちはドッジロイドを一人外野に出したけど、あっちは。
「ショウ、あなたが外野に出なさい! いつも大人しくしていますけど、そのときの気分でわたくしの背中にぶつけてくるかもしれませんわ!」
「自分はそんなことしませんが、ご命令とあれば外野を受け持ちます」
ショウはリリナからいわれたとおり外野に向かった。
「何でもいいから、とにかく勝て!」
プールサイドでも大仁君がうるさい。
ちなみに、今日やる試合は私たちとリリナたちのだけ。大仁君たちの方は、対戦相手が棄権した。大仁君、負けメンバーがいても「水着に着替えるの面倒」って考えて試合自体を消した?
ともあれ、試合開始。ジャンプボールには
「嘘ですわ! きっとわたくしに対するフェイント!」
リリナがわめいているうちに、海道君がボールをこっちにはじいた。
普通のドッジだとボールがはねたり転がったりするけど、プールドッジだと水が張ってあるから違う。ボールは水面に浮かんだ。
つかむと、表面が普通のボールよりザラザラ。水にぬれるので、すべりにくくしてある。
私はさっそくリリナたちに向かって投げた。リリナたちはみんなしてかわす。
でも、大丈夫。今のは投げつけるのに見せかけた外野へのパス。プールドッジは水に邪魔されて振り返る動きがしにくいので、後ろから狙った方が当てやすい。
外野の味方ドッジロイドはボールを水面に落とさず受け止めて、リリナたちに投げつけた。リリナたちはどうにか体を外野に向けていたけど、ボールを受け止めずによけた。ボールはまた私たちのところへ。私は取ったボールでリリナたちを狙う。
狙うときもコツがある。普通のドッジだと足を狙えばキャッチされにくいけど、プールドッジだと水面に止められる。同じ理由で、「地面を転がって外野まで行く」ってことも起きない。
ヘタな狙い方をすると、ボールを向こうへプレゼントすることになってしまう。だから斜め下じゃなく前に前にと意識してボールを投げた方がいい。
投げつけたのは、二回連続の振り返りが一番遅かった敵ドッジロイド。腰に当ててアウト。十一対十。
予習がすっごく生きている! 私はガッツポーズを取った。リリナは外野に出るドッジロイドを悲しげに見送って、私をギロッとにらむ。
「よくもわたくしのかわいいメリーちゃんを!」
メリーちゃん? もしかして、ドッジロイドに名前を付けている?
「許しませんわ!」
リリナは気迫を込めて投げつけてきた。よけるとボールは外野に飛んでいって、ショウがキャッチ。リリナにパスして、またリリナが私たちを狙う。私たちはよける。
何度か繰り返して、外野の敵ドッジロイドがボールを取って味方ドッジロイドに投げつけてきた。味方ドッジロイドは取りそこねてしまって、ボールは高くバウンド。
これはまずいパターン! 普通のドッジならすべり込んでボールを取ることもできるけど、今はプールドッジ。水のせいでボールに近寄るのが間に合わず、水面に落ちてしまった。アシスト失敗だ。味方ドッジロイドは外野に出て、敵ドッジロイドが内野に戻る。十対十一になった。
わりと普通のドッジじゃないだろうか。水はあるけど、アルマジロを投げるとか爆弾がうめてあるとかよりずっとまとも。ボールがはねずに浮くので、むしろのんびりしたドッジかも。
「三分経過。これより追加タイム!」
審判がいうと、プールサイドにいた係員が動いた。プールにかがんで、水槽を傾ける。
じゃぼんじゃぼん。
中身をプールに入れた?
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