5-3
「ツグミちゃん……答えにくいことなら、いわなくても……」
「ヒミツバクロドッジは答えなかったら負けでしょ。次の質問は、どうして助けてくれたのか? あんたに桃の紋が出た日の試合で?」
ツグミちゃんは、大きなため息をついた。
「ココの肩にあれが出て……ドラ息子に伝えなきゃいけなくて。あたしはどうするかなやんだ」
あざが出たときのツグミちゃんはあわてていたと、私も覚えている。
「ドラ息子が突っかかっていくのはわかってたけど、ココにずっと勝たせれば問題ないかなって思った。だから……ドラ息子に、話した。そしたらあたし、考えがばれちゃって……閉じ込められて、試合に出してもらえなくされて……」
自分にあきれているって雰囲気で話していたけど、その場にひざを落としてしまった。
「ごめん。あたしが、だまっておけばよかったのに」
ツグミちゃんの声には涙が混じっていた。
「もう、できそうにない……この試合、あたしの負けでいいわ」
ドッジロイドに手を伸ばして、最後のメモを受け取る。書いている文字を見ると、小さく吹き出した。
「どうしてドラ息子のいうことを聞くのか? 大会のことにすればいいじゃない。二回戦でうまく勝つために」
「ツグミちゃんだって、大会と関係ない質問だった。私は、大会のことよりツグミちゃんのことを知りたいよ」
私も泣いてしまいそうだった。
「じゃあ、答えないといけないわね……」
ツグミちゃんは、か細くなってしまった声で答える。
「あたしがいた孤児院……元大臣が経営資金を援助してるのよ。あたしが裏切ったら、お金を打ち切られちゃう。みんな楽しく暮らしてるのに、孤児院がなくなったらバラバラになる。もしかしたら、扱いがひどいところに移されるかも……」
何それ、人質だよ!
「ライガが来るまでも、窓から出て雨どいを伝うとかすれば……閉じ込められてる部屋から逃げられた。でも、いなくなったって知られてみんなに何かされたらと思うと……」
聞いているメイドさんたちまで泣いているなか、私はムカムカしていた。元大臣が余計なことをしなかったら、ツグミちゃんは家族と暮らせていたのに!
「あたし……そろそろ、戻るわ」
ツグミちゃんは立ち上がって、出入口に向かう。ふらつくような足取りだった。
「待て、山瀬」
呼び止めたのは海道君だった。
「お前がいたところは、元大臣が関わっているというとリトルスター学園か? 王家の監視機関から名前を聞いたことがある」
「それがどうしたのよ」
「連絡はしていないのか?」
「ムリよ。メールとかはあっちから日本へ送れないようにされてるし、こっちから手紙を出してもムダ。返事は来てるのかもしれないけど、私が受け取ったことはないわ」
「そうか」
海道君はツグミちゃんに歩み寄って、はっきりといった。
「ぼくはココを守る。どんな手を使ってでも」
マオさんに頼んで持ってきてもらったのは、便せんと封筒とペン。便せんにサラサラと書き込んで、封筒にキッチリしまって、ツグミちゃんに差し出す。
「ライガに伝言を頼む」
ツグミちゃんは無言で受け取って、また出入口に歩いていく。
「ツグミちゃん!」
私はその背中に呼びかけた。海道君は何の手紙を渡した? それより気になることがある。
「また会える?」
振り返ったツグミちゃんは、さびしそうな顔だった。
「そうしたい……」
言葉が途切れてしまった。だから私は、大きな声でいいきった。
「私、勝ってツグミちゃんを助ける! 絶対に!」
「そう」
ツグミちゃんは笑ったけど、私がずっと見てきた顔と違ってはかなげ。
「気を付けて。次の相手も手強いから」
最後にそれだけいって、秘密体育館から去っていった。
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