5-2

 私たちは、すぐさまコートに入った。暴露することのメモは、それぞれ書いて相手チームのドッジロイドに渡した。ジャンプボールは私とツグミちゃん。

 審判の海道君がボールを高く投げて、私とツグミちゃんは同時に飛んだ。これはツグミちゃんの勝ち。身長差があるから当然。

 私とツグミちゃんは素早く自分のコートに戻った。シューズが床とこすれて二人分の音を立てる。敵ドッジロイドがボールを取っていて、こっちに投げてきた。

 狙われたのは味方ドッジロイド。受け止めて、外野にパス。

 外野の味方ドッジロイドはツグミちゃんたちを狙って投げたけど、よけられてしまった。ボールはこっちに返ってきた。

 拾ったのは私。体勢が整っていなかった敵ドッジロイドにぶつける。まず一人目。

「やっぱり、前までとは違うわね」

 ツグミちゃんは感心した顔をして、当てられた敵ドッジロイドからメモを受け取った。今度はおどろきの顔になる。

「家族のこと……? そんなのでいいの? 大会のことは?」

 私は深くうなずいた。

「だって私、ツグミちゃんのことを知ってるつもりで知らなかったんだし」

「あきれた。次に当たる選手のこととか聞けばいいのに」

 ツグミちゃんは、少しだけ笑ってから答えた。

「あたし、本当は親も兄弟もいないの。強いていうと、王国で一緒に暮らしてた孤児院のみんなが家族よ」

 いきなり重い話になって、私はどう答えていいかわからなかった。ツグミちゃんは、ボールを床にぽんっと一回つく。

「次はこっちが当てさせてもらう!」

 直球勝負! スピードのあるボールを投げてきた。

 狙われた味方ドッジロイドはギリギリでかわして、ボールは敵の外野へ。敵ドッジロイドが受け止めて、よけたばかりの味方ドッジロイドを狙ってくる。

 味方ドッジロイドは取ろうとしたけど、ボールをこぼしてしまった。私はとっさに駆け寄って、床へつく前に拾う。アシスト成功!

 それで終わりじゃない。低い姿勢のまま、ボールを敵の内野に投げる。

 ツグミちゃんたちは、私がそんなことをしてくるなんて思っていなかったみたい。敵ドッジロイドがボールを取りそこねて、床に落とす。

「やれやれね」

 ツグミちゃんはまたメモを受け取って、苦い顔をした。

「どんなふうにしてこっちに来たか……飛行機で?」

 ブー!

 嘘発見器に手加減はない。冗談やボケではぐらかそうとしても反応する。

「あたし、元大臣に引き取られたのよ。お姫様が記憶を取り戻したかどうかの見張り役として、日本に行くために」

 きっと、私たちが一年のときのことだ。

「なかなか治らなくて、三年のときにしびれを切らせたドラ息子が自分で来た。だから見張りの意味あるのかなって気分になってきた。でも、それはそれで気楽だった。もう見張りしなくていい、普通に友だちやってていいって思ったから」

 ツグミちゃんは、いつから私をお姫様じゃなくて友だちって思い始めていたんだろう。

 試合はまたツグミちゃんたちから再開。ツグミちゃんが投げたボールを私たちがかわす。

 ボールは外野へ。敵ドッジロイドが狙ってきたのは私。

 今の私はボールを受け止められるけど、すごい話が次々出たせいで気が散っていた。敵ドッジロイドも、そんな私に隙があると考えたのかも。

 私が当てられたら試合終了。でも、当たったのは味方ドッジロイド。私をかばったからだ。

 私はその味方ドッジロイドからメモを受け取った。質問の内容は、私たちが次の試合でどんな作戦を使うか……なんてことじゃない。

「昔のはずかしい話? セミがすぐ死ぬのは脱皮して寒いからだと思ってた」

「バカね」

「バカだ」

 ツグミちゃんと海道君が声をそろえた。二人していわなくてもいいじゃない。

「こっち四人であっち三人だから、まだ私たちが有利!」

 私はツグミちゃんたちを狙って投げた。敵ドッジロイドに止められて、投げ返される。

 お返しとばかりに受け止めて、同じ敵ドッジロイドに投げつけた。

 また止められて、また私に投げ返された。私はやっぱり受け止めてその敵ドッジロイドに――と見せかけて、他の敵ドッジロイドに投げつけた。

 ドッジロイドも「狙われているのは自分じゃないし」なんて油断するんだろうか。そこはわからないけど、その敵ドッジロイドは足に当てられてアウト。

 ツグミちゃんはメモを受け取って、また困った顔をした。私は心配になってしまった。

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