再会と練習試合

5-1

 連休が途切れて、私は学校に行った。

 普通の日々に戻ったわけじゃない。相変わらずツグミちゃんが来ないし、トンデモドッジ大会も始まったばかり。だから私は、学校にいるときと家に帰るとき以外は一回戦の翌日もその次の日もと毎日続けて秘密体育館で練習!

「疲れた……」

 コートのわきに座って、ちょっと休憩。

 今日もいろいろやった。沼ドッジとかパズルドッジとか。

 ちなみに、沼ドッジは沼にはまりながらやるルール。これはわかりやすい。

 パズルドッジは、相手に当てると自分のパズルでピースを動かせる。パズルを完成させれば勝ち。自分たちの完成前に相手を全滅させると、逆に負け。

「ドラ息子がどういうルールを出すかわからない。一つでも多く予習しておくべきだ」

 海道かいどう君のいうとおりだ。ルールがあまりにもたくさんあって、いくらやっても終わらないから、げんなりしてくるけど……

「大変でも、ツグミちゃんのため! 大仁おおひと君から閉じ込められてるなんて……絶対助ける!」

「その意気だ」

 海道君は、小さく笑いながら自分の汗をぬぐう。

 タオルを当てながら痛そうにした。そういえば、今日はほっぺたとか腕とかに傷がいくつもある。まるで引っかかれたみたい。

「それ、どうしたの?」

 尋ねたとき、ドアが開いてマオさんが駆け込んできた。

「姫、大変です!」

 前もあわてていたっけ。でも、今日は私も目を見開くしかなかった。はじかれたように立ち上がる。

 マオさんの後ろから入ってきたのは、もう何日も見ていなかった顔。

「ツグミちゃん!」

 私はすぐに駆け寄った。だってツグミちゃん、入ってくるなり座り込んじゃったし。

「具合悪いの?」

「お……」

 お?

「おなかすいた……」

 私はがくっとなった。でも、ツグミちゃんがおなかをすかせているのは本当みたい。ぐーって音が聞こえた。

「たしかドッジまんじゅうが」

 私がいうとすぐにマオさんが持ってきてくれて、ツグミちゃんはバクバク食べ始めた。女の子としては、あんまり見ないであげたくなるくらい。

「生き返った……」

 ツグミちゃんは、一箱十八個食べてやっと一息ついた。一個四センチくらいでそんなに大きくないけど、どんどん食べたんだからよっぽどおなかがすいていたってことだ。

「ご飯、食べてなかったの?」

「う、うん……」

 ツグミちゃんは、うつむいてしまった。本当は明るいのに。

「閉じ込められてる、なんて話を聞いてたよ。試合したライガって人に」

 小さくうなずく。

「そのライガが、助けてくれて……今、変装してあたしの代わりになってる」

「あのライガが? 今、女の子のかっこしてるの?」

 私は想像して吹き出した。器用だっていっていたけど、そんなこともできるの? ツグミちゃんは、不思議そうにする。

「それはこっちのセリフよ。ライガは、ドラ息子の手下にされてる人の間で『妹以外に情を見せない』って知られてるやつ。それがわざわざ来て『姫サンに会いに行け』っていって。どういう魔法を使ったのよ」

 大仁君、手下(?)のツグミちゃんにまでドラ息子って……本当に有名なあだ名みたい。

「私はただ、大会でライガやミイと試合しただけで」

 もしかして、ミイを笑顔にさせたお礼? 私がツグミちゃんのことを聞いたから?

「大会……か……」

 ツグミちゃんは、すごく心配げな顔になった。

「ココ、あれは何もかも罠よ。ドラ息子は、他のチームに勝ちメンバーと負けメンバーを用意させてる。あんたたちと当たったときは強い選手を出す、ドラ息子たちと当たったときは逆の選手を出す、ってことになってるのよ」

 私には思い当たることがある。一回戦にミイが出たとき、大仁君が弱いのなんのと文句をいっていた。ミイは負けメンバーだったってわけ。

「元大臣たちは、どんな手を使ってでも王の権力を奪おうとする。あんたに結婚させることで」

「それは想像するだけでも嫌だけど……どっちみち、もう大会は始まっちゃってるし」

 私が答えると、ツグミちゃんは海道君をギロッとにらんだ。

「海道、どうしてココを止めなかったの。その他メンバーをうまく使うために傷を作ったんだろうけど、どれだけ充実してても一度負けたら終わりよ」

 海道君がケガをしているの、秘密特訓とかしたせい? ドッジロイドと?

 海道君は傷のことに構わず、ツグミちゃんに肩をすくめてみせる。

「ココがやると決めたんだ。ぼくは守るだけ」

「ご立派な家臣だこと。でも、ココがあいつらの毒牙にかかったら意味ないでしょ」

 ツグミちゃん、大仁君の手下なのにそれじゃまるで……

 私が考えているうちに、ツグミちゃんは腰を上げた。

「あたし、そろそろ戻るわ。すり替わったってばれたら困る」

 たしかにまずい。でも、このままにして本当にいいんだろうか。

 私は久しぶりにツグミちゃんと会えた。でも、それだけだ。

 私が迷っていると、海道君が肩に手を当ててきた。

「どうにかする方法は、お前が最近ずっとやってきたことの中にあるだろ」

(あ、そうか。海道君ナイスアシスト!)

 私はすぐに気づいた。そばにあったドッジボールを拾う。

「せっかく来たんだし、ちょっとだけやっていかない? トンデモドッジの練習試合」

「え……ルールは?」

「ヒミツバクロドッジ」

 それなら、ドッジの最中に話せる。

「試合の中で大会のことを聞こうって考え? でも、あたし長居できないかも」

「ドッジロイドは少なめにしよう。内野にドッジロイド四人、外野にドッジロイド一人で」

 ツグミちゃんは、少しだけ考えてから答えた。

「そのくらいなら……」

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