4-6
「何やってんだお前ら! 負けてんじゃねえ!」
コートの外で大仁君が怒鳴っている。
ミイはおびえた様子でチラチラ見る。擦り傷とやけどを作ったライガは、妹の頭をぐしゃぐしゃとなで回した。大仁君に構わず、私に話しかけてくる。
「当てられなくてもドッジの楽しみ方はある……か」
私はうなずいた。偉そうなことやったなって気もする。
私だって、こないだまでボールが来ると固まっていた。繰り返しよけるなんて、そう簡単にできることじゃない。でも、ドッジが悪く思われるのは見逃せない。
「ドッジで相手をどんどん倒していくのが楽しいのはわかるけど……」
「わかったわかった。みなまでいうな」
ライガは少しだけ笑って、ミイを見下ろす。
「こいつのあんな顔をドッジの試合中に見たのは初めてだった。賞金のための人数かせぎで入れただけだったが、まさかこんなことになるとはな」
「賞金って何?」
「お前を倒したチームには賞金ありで、倒したときのメンバーなら割増されるんだ。おれとこいつの二人で出て姫サンとの試合に勝てば、うちの家は割増を二人分もらえるだろ」
海道君が「そんなことだろうと思った」とこぼした。私は気が重くなったけど、ライガは違う。
「ドッジか。腹が立つだけのものじゃなかったのかもな」
満足げな顔だった。海道君も、少しだけほほ笑む。
「それでこそ姫。仕えるかいがあるというもの」
「ライガ! どうなるかわかってんだろうな!」
コートの外では、相変わらず大仁君がさわがしい。ミイはやっぱり不安そうだったけど、ライガは「ほっときゃいい」というだけ。
あんなのの下に、今もツグミちゃんがいる。今日は姿が見えないけど、どうしているんだろう。考えると心配になる。
「あ、そうだ。もしかして、知らないかな。ツグミちゃんのこと」
ライガはすぐに答えた。
「姫サンのところでスパイしてたやつか。こっちに来てから見てないな」
教えてくれたのはともかく、スパイっていうな。
「あの……」
ミイが、おずおずと口を開いた。
「ぼっちゃんのお屋敷に、閉じ込められてる人がいる……メイドさんが話してるのを聞いた」
私は『ぼっちゃん』っていうのが大仁君だって気づくまでにしばらくかかった。命令でそう呼ばされているんだと思う。
「ツグミちゃんがそんなふうにされてるなんて。やっぱり助けないと!」
「お人好しの姫サンだな」
うっさいよ!
審判にいわれて、私たちはコートの真ん中にならんだ。試合後の一礼だ。
憎まれ口をたたいたライガだったけど、最初よりもずっときれいな礼をしていた!
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