4-5

「私、今も昔もドッジが好きだよ!」

 私はこっちからもライガに投げつけた。ライガは受け止めたけど、ムカムカした様子を強めていた。だんだんと、意味がわからないっていいたそうな顔になる。

「ボールを受け止められなかったとか聞いたぞ。それで楽しいわけあるか!」

 私には、ライガがどういう人間なのかわかってきた。

 ドッジのことは嫌っていたみたい。でも、理由は「自分がぶつけられるから」なんてこと一つじゃない。もっと大きな理由がある。

 ずっとビクビクしている子――妹のミイ。自分のことより妹のことで怒っていた。

「ドッジには、取れなくても楽しめる方法があるんだよ」

 私は、はっきりとライガに告げた。

 前までは、知っていても実行できなかった。でも、ボールが怖くなくなった今なら!

「訳がわからないことを!」

 ライガは私をにらんでいた。またボールを投げつけてくる?

「海道君、ドッジロイドのみんな、私に任せて」

 海道君は目を丸くして、ライガは頭から湯気を立てた。

「偉そうなやつだ!」

 やっぱり私を狙って投げた。私はボールから身をそらす。

 とはいっても、立っている位置は変えない。変えたら爆弾を踏むかもしれないし。

 ボールは敵の外野へ。敵ドッジロイドが私の足を狙って投げる。私はそれもジャンプしてよける。場所は全然変えない。

「ちょこまか逃げるな!」

 ライガが私にボールを投げてきたけど、同じことだ。私はくるりと回りながらよけて、正面を向いたときはボールを持っていた。

「こっちからも行くよ!」

 すぐさま敵ドッジロイドに投げつける。そう速いボールじゃなかったけど、敵ドッジロイドは急だったせいかつかみそこねてお手玉のようにしてしまった。

 ポロッと落として、アウト。これで八対八の同点!

「もっと私に投げていいよ」

「うるせえ!」

 ライガと敵ドッジロイドがどんどん投げてきて、私はどんどんよける。

 身をそらすだけですむときもある。ギリギリになって、みっともなく転びながらになるときもある。そうすると次ははね起きながらよける。かっこいいよけ方ばっかりじゃない。

「取れないなら、よけられるようになればいいんだよ!」

 それなら怖がりにでもできる。少なくとも受け止めることよりはできそう。

 前に、私はドッジの試合で見たことがあった。最後に残された人がどんどんよけて、相手の隙をうかがって、逆転につなぐところを。

 あのよけっぷりはすごかった。変なよけ方のときもあって、見ている人たちにうけていて――

「あははは!」

 突然の笑い声。記憶の中の声が聞こえたのかなと思ったけど、私の後ろでミイが笑っていた。

「そんな、変なかっこで、よけて……」

 最初の暗そうな雰囲気とは全然違う。楽しそうな様子だった。

「ミイ、何を笑って……」

 ライガは戸惑っていた。試合中に笑うなといいたいみたいだけど、自分も頬がほころんでいる。

 そんな調子で投げてきたから、私は簡単に受け止めることができた。

「こうしたら、どう?」

 ボールを投げたのはライガや敵ドッジロイドじゃない。敵側内野の地面に当たって――


 ズガーーーーン!


「しまった!」

 ライガがハッとした顔になる。私は小さく笑った。

「ずっと同じところを踏んでなかったから、さすがに私でも位置を覚えるよ」

 飛ばされたボールをライガが受け止めた。すぐ投げればいいのに、戸惑っている様子。

「次に爆発するのがどこか、わからないんだね?」

 私は、試合中のいろいろなことを振り返った。

 ライガは、私がぼそっといっただけの言葉も聞き取っていた。もしかして、すごく耳がいいんじゃない? それで、一発目のスイッチが入った音を聞き取っていたとか。

 ジャンプボールのとき、ライガはよそ見していた。あのとき一発目のスイッチが入っていて、ライガは仲間たちに踏んだらいけない場所のことをこっそり伝えた。

 でも一発目はなくなって、二発目にスイッチが入った。

 スイッチの音、今度は聞こえなかったはず。爆発音なんかがしていたら当たり前? 他にもライガの意識を強く引きつけるものがあった。

 大事な妹の笑い声だ。

 ミイの泣き声が……なんてこともいっていた。もしかすると、耳がよくなったのはそれに注意していたからなのかもしれない。

「調子に乗るな!」

 ライガは迷いを吹き飛ばすように怒鳴った。

「お前ら、爆弾を踏まずにボールをよけてただろ! ちっこい爆弾なんかそうそう踏むか!」

 ライガがボールを構える。


 ズガーーーーン!


 足もとで爆発が起きて、ライガはアウト。再び逆転。そして、試合終了のホイッスルが鳴った。

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