4-4

 私は自分が青ざめたと直感した。ライガはこっちの様子に構わない。

「何せ、ドッジは人にボールを当てて痛めつけるのが楽しいスポーツだからな!」

「その騒がしい口を閉じろ!」

 海道君は、ボールを敵チームの頭越しに外野へ送った。

 味方ドッジロイドがライガたちを狙う。ライガたちは振り返って、身構えながら下がる。

「そこ、踏むなよ」

 ライガに声をかけられた敵ドッジロイドだけは、あんまり下がらない。かわされたボールはこっちに戻ってきて、味方ドッジロイドが受け止める。


 ズガーーーーン!


 二発目! 踏んだ味方ドッジロイドが倒れて、ホイッスルが鳴る。ライガはまた大笑い。

「運がいいな、姫サンよぉ!」

 味方ドッジロイドが出ていくなか、私は海道君に話しかけた。心臓を鳴らしながら。

「踏むなっていってた。爆弾の位置がわかってるんだよ。さっき当てたドッジロイドも、爆弾のことを知ってるから急に止まったんだよ。大仁君に教えてもらったとか?」

「さすがのドラ息子も、試合内のイカサマはしないと思うが」

 海道君が、ボールを拾う前に語る。

「忘れているみたいだな。王国では、ドッジに関するイカサマは最悪と見なされる。特にまずいのは、年齢などの資格をごまかして試合に出ること」

 長々と話しているのは、私が落ち着くのを待っているからかも。

「ごまかして出るということは、他人の出る機会を正々堂々とした試合以外の方法で奪うということ。嘘をついたときからの勝ちを全て取り消され、勝ったことで手に入れたものを全て没収され、王国から追放……とされたものもいた」

 そこまでルールにきびしいなら、大仁君もインチキできない?

「どうしてわかるのか気になるか? どうしてだろうなぁ?」

 ライガがにやついていた。こっちはいつまた爆弾を踏んでしまうかわからないのに。

「そんなことより楽しもうぜ? 敵を吹き飛ばせる、ハデなルールなんだしよ」

「ココ、動揺させること自体があいつの手だ」

 海道君のいうとおり。落ち着かないといけない。あっちを二人やっつけたけどこっちも二人やられたから、九対九の同点にされてしまった。オロオロしていたら逆転されかねない。

 海道君は、ボールを拾って外野にパス。できれば外野の味方ドッジロイドに当てさせて、内野の数を増やしたい。

 外野の味方ドッジロイドはライガたちを狙って投げる。ライガたちはよける。相変わらず、さっきのところはさけている。

「ドッジって、かなりひどいスポーツだと思わないか?」

 またライガが話しかけてきた。ボールは味方ドッジロイドが取って、外野にパスしようとする。

「おれたちもなぁ、ひどい目にあってきたんだ。いじめってやつは日本にもあるのか?」

 パスされたボールを、ライガが素早く動いてキャッチ。

 こっちに投げつけてくる。標的は私。

 よければいいんだけど、ライガの話にギョッとしてしまっていた。反応がにぶる。

 私の前に味方ドッジロイドが割り込んだ。不安定な姿勢だったせいか、ボールをうまく受け止められずにアウト。これで八対九。逆転された!

「冷静にならないと……聞いちゃダメ」

 私は自分へいいきかせるように小さくつぶやいて、ボールを投げた。ライガに取られる。

「そういわず聞いてくれよ姫サン。うちは貧乏で、おれは生きるために盗みみたいなこともやってきたんだ。部屋のカギくらいならすぐ開けられる」

 投げ返してくる。私はどうにかかわせて、ボールは外野へ。ミイがすぐ内野に戻す。

「でも学校じゃいじめられて、小さいころはよくドッジで的にされた。ミイもそうで、泣き声が聞こえるたびにおれはムカッとした。ドッジなんて、ろくなスポーツじゃねえ!」

 ドッジのこと、好きじゃないの? ライガは私の疑問に気づいたりしない。私をじっと見て、狙いを定める。

 それもまたフェイント。実際に投げた相手は海道君。海道君は私と違ってぐらついていないみたいで、軽く受け止めた。

「だまれといっている!」

 投げ返す。ライガは受け止める。にやついた顔からいらだった顔になって。

「だからおれは強くなった。いじめてきたやつをいじめ返すためにな! ミイの泣き声の代わりにいじめてきたやつの泣き声を聞けるようになって、気分がよくなった!」

 私はその一言を聞いて、心がざわついた。

 ミイは、外野へ行くときに私たちをさけていた。ボールをぶつけてくる人たちだって警戒していたんだと思う。

「お前もうまくなって、ぶつけまくれるようになったろ! ドッジが好きになったろ!」

 今度こそ、私を狙ってきた!

「ココ!」

 海道君の声が響くなか、私はライガのボールを受け止めた。

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