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「それでいいんだ!」

 大仁君が手を叩くと、怪人たちが準備を始めた。空き地に石灰でラインを引いて、ドッジのコート作りをする。

「おれが他の手下を使って、ここに人が来ねえようにしてる。誰かが離れたところから見たとしても、普通にドッジやってるだけとしか思わねえだろうけどな!」

 そういえば、この空き地は近道として知られているけど私たち以外の人が全然来ない。

「私たちは二人しかいなくて、あっちはたくさん……まさか、人数差がある試合?」

 海道君は、首を横に小さく振った。

「こっちも数をそろえます。あっちと同じように」

 指を鳴らすと、私たちのそばに人がたくさん現れた! 幽霊が出てくるみたいに!

 顔は鉄仮面。体は灰色のタイツ。あっちの怪人と同じ姿だ。

「今の何? 魔法?」

「そのようなものはありません。ステルス機能……見えなくなる技術を使い、ずっと姫のそばにひかえていたのです。元大臣一味がいつしかけてきても大丈夫なように」

「ずっと、私のそばに、ここまでたくさんの人がいたの?」

「人ではなく、ドッジロイドです。ドッジボールのために作られたロボットです」

 私が言葉を失うと、海道君はドッジロイドの一人に軽く指示した。

 そのドッジロイドは鉄仮面の前部分を外した。そこにあったものは目や口じゃない。カメラのレンズやスピーカーっぽいもの。

「中身を見なかったら人間と変わらないよ」

「ドッジボールはたくさん集まった方が楽しいスポーツ。よって王国では人数が足りないときにドッジロイドで代用するのです」

 海道君は、新しく現れたドッジロイドたちを自分のそばに集めた。

「最優先事項は勝つこと。姫をお守りすることも忘れるな」

 ドッジロイドたちがそろってうなずいて、海道君は私に振り返った。

「人とほとんど変わらないドッジ能力を持っています。問題は、走るのが人間より遅いことや指示にコツがいること。直感的なものや応用力に欠けるという難点もあります。もっといいものもありますが、あれは不安定な部分を持っていますので」

 遊びやスポーツのためにロボットを作るなんて。技術のムダ遣いって言葉が私の頭に浮かんだ。

「各チーム、人間メンバーとその他メンバーの希望数を伝えよ!」

 ストライプのシャツを着たおじさんがいつの間にかいて、私たちと大仁君たちに大声で告げた。海道君と大仁君が答える。

「ぼくたちは人間二人にドッジロイド十一体まで用意できる」

「おれたちも人間二人だが、ドッジロイドはあっちよりたくさんいるぞ!」

 おじさんは、それを聞くとすぐに答えた。

「では、メンバーは一般ルールに基づいて人間二・他十で合計十二! 制限時間十分の、一本勝負! 次に、ドッジロイドが小学校高学年レベルに設定してあることを確認する!」

 ドッジロイドたちはおじさんの前にならんで、仮面の前部分を外した。

 おじさんは鼻のところをスライドさせて、中を見る。レベルはそこでわかるみたい。

「あのおじさん、誰? いつからいたの?」

「審判です。王国の審判は、試合を察知するとどこからともなく駆けつけてくれるのです」

「へえ……でも、もし、大仁君の仲間だったらあっちが有利に……」

「それはありません。審判は王国で裁判官より信頼されています。ドーピングなどの違反に対して警察よりきびしい罰を与えることもできます」

 たしかに、ドッジでいろいろなことを決めるのにインチキがあったらたまらない。

「さっき、審判が変なこといってなかった? ナントカドッジって」

「ルールに希望はあるか?」

 チェックを終えた審判がいうと、大仁君がすぐに手を上げた。

「アルマジロドッジだ!」

 アルマジロって動物の? 「アルマジロドッジ」って名前は聞き覚えがあるような。でも、どこでだっけ?

「アルマジロは用意してある! 持ってこい!」

 大仁君が指示すると、ドッジロイドが金属のカゴを持ってきた。ネコが入るくらいの大きさで、中に入っているのは私が想像したとおりのアルマジロ。

「まさか、あのアルマジロに丸くなってもらってボール代わりにするとか?」

「そのとおりです」

 海道君は、平然とうなずいた。

「王国で行われている屯出右衛門とんでえもん式ドッジボール……通称トンデモドッジには、さまざまなルールがあるのです。アルマジロドッジは、普通に当てられたらアウト。受け止めてもアルマジロがあばれてかんだらアウト」

 私があっけに取られていると、海道君はハッとした顔をした。

「ボールにしたらかわいそうだとお思いで? お優しいのはすばらしいことですが、ご安心を。使われるのは特別な訓練を受けたアルマジロです。警察犬が警察で働くように、ドッジ用アルマジロはドッジで働くのです」

 言葉も出なくなってしまった私以外は、普通のことのようにしている。

「姫、一度手にしてみた方がいいでしょう。審判、こちらにボールチェックを!」

 海道君が頼むと、審判はカゴからアルマジロを出させた。


 ギャーーーーーッ!


 誰かの悲鳴、じゃなくてアルマジロの鳴き声。キバをむいて、今にもかみついてきそう。

「大人しくせよ」

 審判が背中をさするとアルマジロはすぐにだまって、丸い形になった。海道君が受け取って、私に差し出す。

 恐る恐る受け取ると、アルマジロはゴツゴツデコボコしていた。外側はウロコで、犬やネコと違ってひやっとする。普通のボールに比べると、大きさは少し下で重さは結構上。

 鳴き声やキバを思い出すと、かまれるのが怖い。いつあばれるのかわからないのだとすると、普通のドッジより早く投げないと危なそう。

 持っているうちにあばれだすかも。そんな想像をしたせいで、ポロッと落としてしまった。

 アルマジロはボールみたいにちゃんとはずむ。私が拾うのを怖がっていると、海道君がつかんで審判に返した。

 私は動揺しているけど、大仁君はいつもどおりニヤニヤしていた。隣にいるコウモリ仮面の人に話しかける。

「本当に、このルールで楽に勝てるんだな?」

 どういうこと? たしかに私はこんなドッジしたことないから、そっちが有利だろうけど。

 審判は、アルマジロを手にしたままコートの真ん中に立った。

「それでは、試合を始める!」

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