2-3

 舌打ちしている海道君の隣で、私はギョッとしていた。

 十人以上いて、みんなどう見ても普通の人じゃない。

 背丈は海道君よりちょっと高いくらいだけど、頭には金属のかぶり物。

 体には灰色のタイツ。指先までおおっていて、肌がちっとも見えない。

 怪人たちの間を割って、あと二人現れた。

 片方は、体型からして女? 背が高くて、コウモリみたいな仮面で顔を隠している。

 もう一人は――

大仁おおひと君?」

 昼休みと同じニヤニヤ顔で、私をながめる。

「桃の紋がまた出てきたんだろ? おれのこともわかるようになったか?」

 今、大仁君って呼んだじゃない。私はそういいたかった。海道君は私をかばうように立って、ひそひそ話しかけてくる。

「あいつは、さっき話した元大臣大仁ゲンの息子です。ぼくと同じく、素性を隠して日本に来ていたのです」

 大臣の。私はいわれたことを心の中で何度も繰り返して……胸をつらぬかれた気分になった。


「いつかパパが王様になるんだ」

「そしたらおまえを子分にしてやる!」


 よく見る夢の嫌な方。その中で聞いた言葉が、はっきりした形で頭の中に響き渡った。

「夢の中で私をいじめてたの、やっぱり大仁君!」

 海道君がうなずいた。ムッとした顔で。

「あいつは昔から姫に無礼なことばかりしていました」

 夢に見るくらいだ。私はかなり嫌がっていたに違いない。大仁君はニヤニヤを強める。

「やっと思い出したみたいだな!」

 ビシッ! と私を指さす。

「今すぐおれと勝負しろ! ドッジで!」

 はい? ドッジ? 私が答えに困っていると、海道君がまたささやきかけてきた。

「王国ではいろいろなことをドッジボールで決めるとお話ししたでしょう。お父上が王位を狙われて試合したことも」

「そうかもしれないけど……急にいわれても、困るよ」

 私はドッジが好きだ。ヘタだけど。

 ドッジの国っていうのはわくわくする。そこのお姫様だっていわれたらわくわく度アップ。

 でも、大仁君と関わるのは嫌だ。大仁君相手の試合なんかしたくない。

「やらねえなら不戦敗だぞ!」

 大仁君は一方的に話し続けていた。

「おれが勝てば、だ!」

 何ですと?

「お前を嫁にすれば、おれの家が新しい王家になる! おれが次の王様だ!」

 お嫁さん? お父さんが王の座をかけさせられたみたいに、私は嫁の座をかけさせられる?

 大仁君がはずかしそうにいうのなら、かわいげがあるかもしれない。

 そんな様子はない。好きなおもちゃで遊びたがっているとか、その程度の雰囲気。

 つまり、お嫁さんにするっていうのはただ王様になりたいからで……うわ、最低。そんな大仁君のところで、お嫁さん? ますます冗談じゃない!

 でも、大仁君と怪人たちは囲みを解いてくれそうにない。私、試合しないといけない? ボールを投げられると固まっちゃうのに!

 あっちはたくさんで取り囲んできていて、こっちは私と海道君の二人だけ。その海道君も、ずっと同じクラスだったのにあんまりしゃべってこなかった。さっきは子犬を怖がっていたし。

「ご安心ください」

 海道君は、少しだけ私に振り返った。

「ぼくが守ります」

 その顔は真剣そのもの。

 もし大仁君が王様になったら、海道君は「あのときは邪魔しやがったな!」とひどい目にあわされそう。

 海道君にそんなことを恐れる様子はない。かばってくれることへの心強さを感じる。だから、私は大仁君にうなずいた。

「わかった……やるよ、ドッジ!」

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