1-2
それからもツグミちゃんはどんどんやっつけて、今日の勝負は私たち一組の勝ち。私はぶつけられて休んで終わりだったけど。
決着がついたところで掃除前の放送が流れて、私たちは校庭から校舎に戻り始めた。
「ひどい目にあったよ……」
私は歩きながらおでこをさすっていた。
投げられると固まっちゃうから、試合だとぶつけられ放題。でも、みんなでドッジをやるって聞くとわくわくし始める。私はヘタだけど、ドッジってにぎやかですごく面白いと思う。おじいちゃんによると、こういうのは「ヘタのヨコズキ」っていうらしい。
(もっとうまくなれたら、もっと楽しくなるのかな)
ふと見ると、ニヤニヤしながら私をながめている男子がいた。大仁君だ。嫌いなのは、よく見る夢の嫌な方と重なるせいでもある。
嫌な夢の中にいる私は幼稚園児辺りで、同い年くらいの男の子が大事なものを取り上げたり足を引っかけたりしてくる。そのときの言葉は決まっている。
「いつか……が……になるんだ」
「そのときおまえを……にしてやる!」
声や口調が大仁君と似ているような。ていうかその男の子が大仁君で、幼稚園に行っていたころの面白くない思い出が戻ってきているとか?
でも、私は小さいころのことを全然覚えていない。だから正解なのかどうかわからない。
大仁君に尋ねてみる、なんて考えたくもない。そもそも、できるだけ近づきたくない。
「イライラしなくてもいいじゃない。あたしが仇を討っといたでしょ」
ツグミちゃんが笑って、私はうつったように笑った。
(ドッジのチームを作ったら、楽しいんじゃないかな)
それは、私がときどき想像すること。
うまい人より仲のいい人を入れたい。みんなで集まって練習したり、大会に出たり。負けたらみんなではげまし合って、勝ったらみんなで喜ぶ。考えるだけで明るい気分になる。
でも、作ろうとしたって誰も入ってくれないよね……いいだしっぺの私がヘタクソじゃ。そう思うと悲しくなってくる。
ツグミちゃんは付き合いで入ってくれるかもしれない。むしろツグミちゃんは絶対必要! でも、二人じゃドッジチームっていえない。内野と外野が一人ずつになって、さみしすぎる。
「また暗い顔に戻ってるじゃない!」
バーン! とツグミちゃんが背中を叩いてきた。むせそうになった私だけど、お陰で嫌な気分がどこかに飛んでいった。本当に、ツグミちゃんがいてくれてよかった。
そんなことを考えながら、左肩に手をやった。ムズムズしたせいだ。微妙に熱いような。
(はれてる? ぶつけられたのはここじゃないけど)
そでをまくって見てみると、赤くなっていた。
印に見える。ハートを逆向きにしたような形。
「何これ」
「それは……!」
ツグミちゃんが息を飲んだ。あわてた手つきで私のそでをつかんで、ぐいっと下げる。
「どうしたの?」
私がきょとんとしていると、ツグミちゃんは引きつった笑い方をした。
「ほ、ほら。女の子の肌に変なあざがあるなんて、見られたくないものでしょ?」
たしかにそうだ。でも、あわてすぎじゃい?
「別に誰も見てないよ」
私が辺りに目を動かすと、もう大仁君もこっちを見ていない。子分の男子としゃべっている。
他の視線がこっちに向いていた。校舎の近くまで来ていた私たちに、鋭い視線が定まっている。
げた箱の入り口に男子が一人立っていた。
げた箱の入り口にいたのは、ドッジに入れてほしかったから。私はそう直感したけど、すぐに薄れた。そんなことを考えそうなタイプじゃない。
海道君は誰ともあまり話さない。一年のころから同じクラスの私でもそう。
いつも一人で、冷たい表情をしているばかり。何を考えているのかさっぱりわからない。そういう雰囲気がミステリアスだとかで、女子には人気がある。でも彼女がいる話は聞かない。
その海道君が私をじっと見ている。いつもは乾いた視線だけど、今は目を見開いていた。
(はれてるところを見た? でも、どうしてそんなにおどろいてるの?)
考えているうちに海道君は正気を取り戻したようにいつもの無感情に戻って、私たちがげた箱へ入る前に奥へ引っ込んでいった。
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