第31話 アホ淫魔、最後の晩餐!#3

「ルフィーナと!」

「れ、玲緒奈の!」

「「13分クッキングー!」」

 ……なんだこれは。

「13分って半端じゃないか?」

「3分だと怒られちゃうかもしれないわ」


 翌日。バイトを終えた俺とルフィーナは、家に帰らず姫城家のキッチンにいた。


「先生、今日はどのような料理を作られるんですの?」

 エプロン姿の玲緒奈がアシスタントになりきって尋ねる。

「今日はこのなめこを使って、焼きなめこを作りたいと思います」

 淫魔の正装だというあの布切れに着替えたルフィーナが答えた。

「天然物のなめこは秋に採れるはずなのですが……」

「きっと魔力のせいで成長が早まったのよ。さて、まずはなめこをオーブンで焼きます。焼き色がついたら取り出します」

「次はどうされるんですの?」

「完成です」

 えらい雑だな。13分間オーブンを眺めて終わったぞ。

「作者は料理できないから、ネットのレシピを参考にして書いたそうよ」

「不器用だからなあいつ」


 読者の皆さん、味やその他諸々については保証しませんので、作る際はちゃんとしたレシピを見てください。


 注意書きも終わったところで、俺は焼きなめこに視線を向ける。少しばかり縮んではいるが、普通のなめこに比べたらまだまだ大きい。


「黒いチ○ポみたいね」

「またお前はそういうことを言う」

「このままでは食べにくいですわね」

 そう言ったかと思うと、玲緒奈は包丁でなめこを両断した。

「おうっ!」

「きょ、京也さん!?」

 突然、股間を押さえてうずくまった俺を見て、玲緒奈が包丁を持ったまま近づいてくる。

「お、おい! 玲緒奈、包丁を置け!」

 俺を殺す気か!

「え!? えぇ、失礼いたしました。京也さん、どうされましたの?」

「大丈夫だ。ちょっと嫌な想像をしただけで……」

 これは男にしか分からん痛みだ。

「キョーヤは向こうに行ってなさい。出来たら呼ぶわ」

 俺の事情を察したルフィーナがそう言ってくれたので、お言葉に甘えて席を外すことにした。


「完成よ」

 なめこは一口大に切り分けられて、皿に盛りつけられていた。上には白濁液――魔力がかかっている。そばにはしょうゆとポン酢が置かれており、これを好きにかけて食えということだろう。

「よし、じゃあルフィーナ。早速食べろ」

「いただきます」


 ポン酢をかけて、ルフィーナが上品な手つきで口に運ぶ。その瞬間、彼女は口を押さえ、何かを求めるように手を伸ばしてきた。

「ルフィーナ!?」

 やばい、これ毒キノコだったのか!

「わ、わたくし救急車を呼んできますわ!」

「頼む! ルフィーナ、すぐに吐け!」

 しかしルフィーナは吐こうとしない。それどころか、口を押さえ飲み込もうとしている。

「水をちょうだい、一気に流し込むわ!」

「バカ、そんなことをしたら助からねぇぞ!」

 毒キノコには詳しくないが、体内に入れたらマズいのは分かる。

「そうじゃないの! これは毒じゃないわ! いいから水!」

 俺は逡巡した末、グラス1杯の水を手渡す。ルフィーナはそれを飲み干すと、ふぅ、と息をついた。

「大丈夫か?」

「ええ、何とか」


 通報する寸前だった玲緒奈を呼び戻し、ルフィーナに事情を訊くと。

「これ、美味しくないわ」

「マズいのか?」

「かなりのまずさよ。でも、魔力はそれなりに回復したから、あと2、3本食べればゲートが召喚できると思うわ」

「じゃあ、がんばって食え」

「嫌よ! キョーヤも、食べたらどれほどまずいか分かるはずよ」


 魔力は人間が食べても平気らしいので、俺もポン酢をかけてぱくり。

「むっ」

 確かにマズいが、我慢できないほどじゃない。十分食える。

「キョーヤにはもっといい物を食べさせるんだったわ」

 感想を述べると、ルフィーナがそう嘆いた。なんだその俺が貧乏人みたいな言い草は。

「では、わたくしも一口頂きますわ」

 金持ちの玲緒奈が同じようにぱくり。彼女は口に手を当て、若干顔をしかめたが、そのまま飲み込んだ。

「確かに味の方はよろしくありませんが、十分頂けますわ」

「おかしいわね。玲緒奈には毎日、私が最高の料理を作っているんだけど」

「おかしいのはお前の方だ! 諦めてさっさと食え!」

「嫌よ、これ以上食べたら死んじゃうわ!」

「死ぬわけあるか!」

「……分かったわ。その前に、お花を摘みに行かせて」

「行ってこい」


 彼女がキッチンを出ていき、その直後。

「おじゃましましたー!」

 そんな声が聞こえ、顔を見合わせる俺と玲緒奈。

 …………。

 あのアマ、逃げやがった!

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