第30話 アホ淫魔、最後の晩餐!#2

 そして夜9時。姫城家で待っていたメイドさんに説明を受け、護身用にと木刀を渡された俺たちは森へ出発した。


 月が出ているせいか森の中は意外と明るく、隣を歩くルフィーナの姿も認識できた。しかし表情が見えるほどの明るさはなく、念のため持ってきたライトで前方を照らしながら進む。


「な、何があってもお姉さんが守ってあげるわ」

 俺に腕を絡め、ルフィーナが震えた声で言った。

「さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ」

「だ、だって、オバケが出るかもしれないじゃない!」

「はぁ?」

 彼女に視線を向ける。絡む腕から身体の震えが伝わってきた。

「お前、怖いのについてきたのかよ」

「キョーヤ1人じゃ心配だし、怖いだろうって思ってついてきたの」

 俺を心配してくれていたのか。虚勢を張っていたのも、俺を不安にさせまいとしていたのかもしれん。

「ありがとな」

「いいのよ。その代わりセックスさせてね」

「結局それか!」

 俺の感謝を返せ!

「先っぽだけでいいから」

「それ男が言うセリフだろ」

 そんなやり取りをしているうちに開けた場所に出た。森を切り開いて作られたこの畑には、小さなビニールハウスが2つと、畦が10本くらいある。

 異常がないかを見て回る俺の後ろをルフィーナがついてくるが、作物を見て感心したように息を漏らしているだけなので、俺とは違うことをしているのだと思う。

「ここの野菜はいい色をしているわね。どれもすごく美味しそうだわ」

「神山さんに言ったら喜ぶぞ」

 見回り終了。帰ろうと来た道を引き返そうとした俺は、いきなりルフィーナに押し倒された。


「キョーヤ、ここでシましょう?」   


「お、おい! お前ここ森の中だぞ!?」

「私は構わないわ」

「俺が構うんだよ!」

 初体験が森のど真ん中は嫌だ!

「相手が美女なんだから、そんな細かいこと気にしなくてもいいじゃない」

「気にするわボケ! お前、これが狙いだったのか!」

 夜の森で2人きり。助けを求めても誰も来ない上、今の俺はスマホを持ってない。ルフィーナにとっては絶好のチャンスだ。

「……そうよ!」

「何だ今の間は! そういうことにしておこうって思っただろ!」

「思ってないわ。そんなことより、もう諦めなさい。力で私に勝てないのは分かってるでしょう? 無理やり犯されるのが趣味ならそうさせてもらうけど」

 この悪魔……っ!

「ふふ、あなたのその顔、すごくいいわ。ゾクゾクしちゃう。大丈夫よ、私が全部やってあげるわ。あなたはリラックスしていれば――」


 そこでルフィーナは固まった。

「おい、どうした?」

「ね、ねぇ、あの光ってなに?」

 ルフィーナが手を震わせながらまっすぐ正面を指さす。仰向けの俺は体をひねり、何とかそれを視界に収めた。

「おいおい……」

 森の中で、白い光が揺れていた。

「ユ、ユーレイかしら?」

「んなわけあるか」

 ライトの光だろう。わずかに上下に揺れながら左に動いている。

「ほ、本当?」

「ここに幽霊が出るなんて聞いたことないぞ」

 そう言ってやると、安心したのかルフィーナの口から大きな息が漏れた。

「帰って報告するぞ」

「何言ってるの。追いかけるわよ」

 お前が何言ってんだ。

 止めようとする前に、ルフィーナはさっさと木々の中へ入ってしまった。ほっとくわけにもいかず、俺も後に続く。

「危ない奴だったらどうすんだよ」

「相手が人間ならこっちのものよ。ライトは消さなきゃだめよ。バレちゃうわ」

 言われるがままにライトを消す。

「淫魔は夜目が利くの。手を出して。しっかりお姉さんについてくるのよ、いい?」

 ルフィーナに手を握られる。彼女の手は意外と小さく、そして細かった。握りしめたら壊れてしまいそうな、ガラス細工のような繊細さが感じられた。

 くそう、こんな状況でもドキドキする俺はやはり童貞なのだろう。


 相手もライトを消し、こちらに背を向けて立っていた。小柄で、髪は長い。女のようだ。見た感じ道具は持っておらず、山菜や畑が狙いではないように見える。何しに来たんだ?


 足音を殺し、緊張から呼吸も少なくなる。木刀を握りしめ、ゆっくりと長い息を吐いていると、いきなりルフィーナが走り出した。


「そこまでよ侵入者、おとなしくへぶっ!?」

「お、おい!」

 根っこに足をひっかけ派手にこけたルフィーナに驚いたのか、相手は弾かれたように走り出した。

「ルフィーナ!」

「私はいいから追いかけて!」


 慌てて相手を追う。足場はそこまで悪くない。足元に注意していればルフィーナみたいにこけることはないだろう。

 目的地が分かっているのか、相手は迷う素振りを見せず逃げる。森から直接道路に出るつもりなのかもしれない。その前に相手の特徴くらいは確認しておこう。


 前方へライトをつける。もともと大して距離はない。服装と髪型くらいは把握できるはずだ。

 走っているせいで光が揺れる中、俺は何とか相手の背中に狙いを合わせた。照らされたのは長い金髪ロールのジャージ姿――。

「玲緒奈!」

 特徴にぴたりと一致する彼女の名を、俺は思わず叫んでいた。それに反応して侵入者がこちらに振り返り、そしてこけた。


 そのうちに追いつき確認する。眩しそうに光を手で遮った彼女は、間違いなく玲緒奈本人だ。


「きょ、京也さん?」

「あぁ。ケガはないか?」

「平気ですわ」

 玲緒奈が土を払い立ち上がる。 

「こんな所で何してるんだ?」

 侵入者でないことに安堵しつつ尋ねる。

「さ、山菜を採りに来たのですわ」

「こんな夜に道具も持たずにか?」

「よ、夜にしか生えないキノコがあるんですの。本当ですわよ」

 苦しい言い訳だな。


「……それで、何でいるんだ? 俺とルフィーナは神山さんに頼まれて、代わりに畑の見回りをしてたんだが」

「先ほどの声はルフィーナさんでしたのね……」

 玲緒奈はそれに驚いて逃げたのだろう。

「派手にこけたけどな。で、何しにきたんだ?」

 玲緒奈は答えない。そのまま待っていると、彼女はぽつりと零した。


「……脱ぐつもりだったんですの」

 それは小さな声だったが、静かな森では聞き取るには十分だった。

「まさか、ここで裸になるつもりだったのか?」

 恐る恐る訊いた俺に、玲緒奈はこくりと頷いた。なんてこった。

「さ、最近はノーパンだけでは我慢できなくなってしまって……。私もいくらなんでも全裸はいけないと思ったのですが、露出魔やルフィーナさんの一件を経験し、出来ると自分に言い聞かせて、今日ここに来た次第ですわ!」

 そんな自信満々に言われてもな。

「ですが決意が鈍ってしまい、迷っているうちにお二人がいらっしゃり、驚いて逃げてしまったのですわ」

「もうお前は……俺が何を言っても無駄な気がするな」

 とりあえず帰る前に、ルフィーナを回収しなければ。

「この件は黙っとくよ。歩き慣れているかもしれんが、地面に出てる根っこもあるんだから気をつけろよ」

「申し訳ありませんわ。――京也さん、そのことについて1つ、見ていただきたいのですが」


「何だ?」

 玲緒奈はライトで、自分がつまずいた足元を照らした。そこには真っ二つに折れた1株のキノコが――いやキノコかこれ?

「デカいな!」

 長さは30cmくらいで、それに比例して太い。色は白に近い肌色で、折れた先からは白い液体が垂れている。それがそこら中に群生していた。こんな場所があるなんて、神山さんは言ってなかったぞ。

「最近、森に入られている京也さんならご存じだと思ったのですが……」

「いや、こんなキノコは初めて見た」


「キョーヤぁ! どこにいるの!?」

 ルフィーナの声が響いた。

「ここだ!」

 合図にライトをつけて大きく振る。

「よかったわぁ、キョーヤ!」

 俺を抱きしめるルフィーナ。身体は森に入った時以上に震えており、ここに来るまで本当に怖かったんだろうと想像できた。

「それで、侵入者はどうなったの?」

「侵入者ってのは玲緒奈だった」

「こんばんは、ルフィーナさん」

「こんばんは。それで、玲緒奈は何でここにいるの?」


 玲緒奈がもう一度同じ説明をすると、ルフィーナは感動したように彼女の手を取った。

「素晴らしいわ! あなたのその淫乱な精神は、ぜひ淫魔界でも見習われるべきよ! ほら早く脱ぎましょう!」

「ええ!? ですが京也さんもいらっしゃいますし……」

「大丈夫よ、恥ずかしいなら私も一緒に脱ぐわ」

「脱ぐな! お前は捕まったばっかりだろうが!」

 ワンピースに手をかけたルフィーナを止める。

「ここは森の中だから警察なんて来ないわよ」

「そういう問題じゃねぇ! それより、お前に見てほしい物があるんだよ」


 俺はナニかに似たデカいキノコを見せる。

「チ○ポね」

 即答。この答えは予想していたのでスルーする。

「多分キノコだ」

「チ○ポよ」

「もしかしたらお前なら知ってると思ってな」

「チ○ポって言ってるでしょう!」

「しつけぇな! チ○ポが木から生えるわけねぇだろ!」

 意地でもチ○ポを貫くルフィーナに耐え切れず、ついにツッコんでしまった。

「森に行けば孕み放題なんて、日本はうらやましいわ」

「それが実現したら少子化問題なんてねぇんだよ! 真面目に答えろや!」


 ルフィーナに渡す。彼女は品定めするように視線を這わせ、匂いを嗅ぎ、そしてしゃぶり出したので、俺は即取りあげた。


「ごめんなさい、ついサキュバスの本能が出ちゃったわ」

「で、分かったか?」

「えぇ。これはなめこよ」

「なめこ?」

 俺が知っているなめことはだいぶかけ離れている。

「魔力のせいで変色したのよ。この辺りがゲートの転移先になってるせいね」

「転移先?」


 ゲートが魔界と人間界を繋ぐ門のような物だとは聞いた。

「魔界ではどこにでも転移できるし召喚も自由なんだけど、人間界では召喚できる場所も転移する場所も決まってるのよ」

 その場所の1つがこの森ってことか。

「とりあえず、そのなめこも火を通せば食べられるわ」

「だから火は万能じゃないって言ってんだろ」

 足元の土には魔力が大量に垂れていた。一株でこれだけの量を含んでいるなら、ここのキノコを全部食べれば、ルフィーナは魔界に帰れるようになるんじゃないか?

「そうね。がんばって食べてみるわ」

 今から早速試したいところだが時間も時間なので、明日の夜に姫城家で試すことにし、今日は引き上げることにした。


 と思ったら、ルフィーナがなめこを熱心に採っていた。

「明日また来るから採らなくていいぞ」

「違うわ。これをあなたのチ○ポだと思ってオ○ニーするのよ」

「食べ物で遊ぶな!」

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