第29話 アホ淫魔、最後の晩餐!#1
「川崎さん、ひとつ頼まれてほしいことが」
バイトが終わり剪定した枝を片づけていると、姫城家の執事、神山さんがそう言ってきた。
「はい、何ですか?」
「実は私、毎晩畑の見回りをしているのですが、今日は急用が入ってしまい、これから向かわなくてはならなくなったのです。申し訳ありませんが、代わりに見回りをお願いしてもよろしいでしょうか? もちろんその分のお金は支払いますし、無理強いもしません」
見回りくらいならすぐに済むだろう。
「分かりました、やります」
「ありがとうございます。獣や侵入者が出たことはありませんので安心してください。詳しい話はメイドに伝えておきます。では、夜の9時にまたこちらへ来てください」
時刻は5時。神山さんと別れ家に帰ると、ルフィーナがいつものように出迎えた。
「キョーヤ、おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも――」
「ちょっと待て! 何でお前いるんだよ!」
おととい、こいつは公然わいせつをやらかして捕まったのだ。てっきりまだ留置場にいるもんだと思ってたが、どうやら違ったらしい。
「警察の偉い人に悪魔がいたのよ。私が2時間かけてオルドリッチの娘だって説明したら釈放してくれたわ。何で誰も、私がルフィーナだって信じてくれないのよ!」
こいつ、家出してるくせに実家の権力使ったのかよ。
「それで、あの夜何があったんだ?」
「玲緒奈から聞いてない?」
「聞いたよ」
その場にいた玲緒奈の話では露出魔に出くわし、もみ合いになったはずみで服が脱げたらしい。また、玲緒奈がそう伝えたのか知らないが、姫城家ではルフィーナは露出魔から玲緒奈を守ったと思われているようで、こいつの評価が上がっていた。
「どう考えても不自然だろ。俺に権力は通用しないぞ。さっさと本当のことを言え」
「うぅ……分かったわよ。その代わり怒らないでね?」
そう前置きして、ルフィーナはあの夜のことを語り始めた。
「――っていうことなの」
「意味が分からない」
何で露出魔に対抗して脱いだ?
「相手の胸が予想以上にいい形で、ちょっと悔しかったのよ」
「何で対抗意識燃やしちゃったんだよ」
勝負じゃねぇんだぞ。
「それはその、サキュバスの性というか本能というか」
もう突っ込まないことにしよう。
「それから俺、今夜出かけるから」
そう伝えると、ルフィーナは何故か怒りだした。
「酷いわ!」
「何が?」
「私がいるのに、キョーヤは他の女と遊ぶのね!」
こいつどんな思考回路してやがんだ。
「行くのは玲緒奈の家だ! 神山さんに頼まれたんだよ。今日は都合悪いから、代わりに畑の見回りしてくれって」
「そういうことね」
おっ、意外とあっさり納得してくれた。信用されてるなぁ俺。
「もしキョーヤが他の女と遊んでも、私は匂いで分かるもの」
「ヤンデレかお前は」
怖いこと言うな。
「見回りに行くなら私もついていっていい?」
「お前も?」
「私は悪魔だから人間より力があるし、何かあってもあなたを守れると思うの」
獣やら不審者はいないとの話だが、万が一ということもある。だが呼ばれたのは俺だけだ。勝手に人を追加したらマズいんじゃないか?
「ちょっとスマホ貸してくれる?」
言われた通りに貸すと、ルフィーナは神山さんに電話をかけた。
「もしもし、ルフィーナです。キョーヤの見回りに私も同行させてもらえないでしょうか? ――力には自信があるので平気です。――はい、ありがとうございます。失礼します」
彼女は俺に電話を返し。
「私もついていくことになったわ。玲緒奈を露出魔から守ったのが信用されたみたいね」
「実際は脱いだだけなのにな」
「これでもう、何が襲ってきても平気よ!」
得意げに胸を張るルフィーナ。力関係で女に頼ると言うのは何とも情けないが、事実なので受け入れよう。何かあったときは、せめて俺が前に出なきゃな。
俺の意気込みをよそにルフィーナは靴を履き。
「さぁ行くわよ!」
「まだ早いわ!」
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