第27話 アホ淫魔、初めての労働!#5

 それから、ろくな方法も見つからないまま数日が過ぎたある日。


「ルフィーナさん、今いいかしら?」

 仕事も終わり、後片付けをしていた私のもとに玲緒奈のお母さまがやってきた。

「はい、沙紀さま」

「最近、玲緒奈がどこかに出かけているでしょう?」

「存じておりますわ」

「訊いても誤魔化すばかりで……難しい年頃なのは分かるけれど」

 沙紀さまは頬に手を当て、ため息をひとつ。

「最近、この辺りに露出魔が現れると聞いてからは、もう心配で心配で」

「心中、お察しいたします」

「それで、あなたにお願いがあるのだけれど、玲緒奈が何をしているのか調べてほしいの」

 まさか沙紀さまにお願いされるなんて。

「もちろんですわ。ぜひやらせていただきます」

「ありがとう。あの子が何をしているかだけ分かればいいわ。その時には、お給料にボーナスをつけてあげる。できることがあれば、私も協力するから」

 何ですって。俄然やる気が出てきたわ。

「では、1つお願いしてもよろしいでしょうか?」


『ルフィーナさん、玲緒奈は今家を出たわ。正門に向かっていったから、後はお願いね』

「はい、お任せください」

 沙紀さまの連絡を受け、私は立ち読みしていた週刊シャンプーを買って、近くのコンビニを出た。彼女にお願いしたのは、玲緒奈が家を出たら知らせること。こうすれば、もう警察に絡まれなくて済むって寸法よ。

 ここから玲緒奈の家までは50mくらい。でも、玲緒奈も家から門までは同じくらい歩くはず。

 読み通り、門の近くまで来たところで、玲緒奈が門から出てきた。一旦隠れたが、玲緒奈は私に背を向け反対方向に歩いていったので、見つかることはなかった。

 玲緒奈は真っすぐ駅の方向へ向かっている。その後ろを、距離を置いて追う。


 調べてみたら、尾行は電柱に隠れるんじゃなくて、コンビニの袋とか持って自然を装うのがいいらしいわ。

 玲緒奈が気づく様子はない。いいわね、なんだか私、探偵みたいじゃない? コマンや金田真とはちょっと違うけれど。

 玲緒奈は駅に向かって歩いていく――と思ったら、商店街の隅に建つ雑居ビルの3階に、外階段で上がっていった。彼女が扉を開ける瞬間、ちらっと見えたピンク色の内装。何のお店かしら……まさか援交!?


「この身体はおじ様のモノですわ。どうぞ、お好きになさって」

「ぐへへ、まずは玲緒奈ちゃんのおっぱいから――」


 な、なんてことにーっ!

 玲緒奈、さすがにそれはまずいわよ! 沙紀さま、何としても私が阻止してみせます!

 鉄製の扉には何も書いておらず、ますます怪しい。喘ぎ声がすると思って扉に耳を当ててみるが、何も聞こえない。よほど丁寧な防音がされているようね。

 少しだけ扉を開けてみると、やはりピンク色が広がっている。突撃するしかないわね。行くわよ、ルフィーナ!

 勢いよく入った店には、見世物にされた美少女たちの裸を眺める客たちがいた。商品の彼女たちは嬌声を上げ、その肢体を快楽に浸らせていた。


 画面の向こう側で。


「いらっしゃせいー」

 レジにいた店員が事務的に挨拶してくる。

「ここ、アダルトショップだったのね」

 なら安心だわ。でも、沙紀さまには何て言えばいいかしら。プレゼントを選んでた、だと誰のか訊かれるし……。難しいわね。

「ル、ルフィーナさん?」

「あっ」

 沙紀さまへの報告に頭を悩ませる私は、肝心なことを忘れていた。

「こ、ここで何をなさってますの?」

 店内は大して広くない。そして出入り口は私の後ろの扉だけ。

 そんな所で隠れもせず立っていたら当然、鉢合わせるわけで。

「え、えっとねぇ……」

 私、探偵には向いてないみたい。


 誤魔化すこともできず、私は素直に白状した。っていうか私、別に悪くないわよね。確かに尾行とかしたけど、それは沙紀さま公認のもとでやったことだし。

「そうでしたの……お母様が」

 玲緒奈はそんな私を責めることはせずに、ばつが悪そうに俯いた。

「わたくしはこのごろ、このお店に足繁く通っていたのですわ。ですが、そのようなことを人に言えるはずもなく……」

 そうよねぇ。

「大丈夫よ、沙紀さまには言わないでおくから。安心してエロゲライフを楽しみなさい!」

 グッ、と親指を立ててみせる。エロの探求は何人たりとも邪魔できない神聖なものよ。たとえ家族であってもね。

「ルフィーナさん……!」

 玲緒奈は感動した目で私を見てくる。

「それで、どんなエロゲを買うの?」

「これですわ」

 玲緒奈が渡してきたのは学園モノで、ヒロインが脅迫され性奴隷に堕ちていくという内容のようだった。

「ヒロインが私そっくりなんですの。ますます想像が捗って、た、昂ってしまいますわ!」

「いいことよ玲緒奈! それにしても、よくこんな場所見つけたわね」

「ルフィーナさんにおっしゃられてから調べましたの」

「私?」

「覚えておられませんの? 初めて会ったあの日、別れ際に教えてくださったではありませんか」

 …………。

 ……。

「言ったかしら?」

 まったく覚えてないけど、もし私が原因だとしたらまずいわね。沙紀さまに知られたらなんて言われるか……。

「とにかく、アダルトショップに行っていたという事実は隠さないといけないでしょう?」

「そ、そうですわね」

「じゃあ、誤魔化し方を考えましょう!」

 玲緒奈だってバレたくはないはず。その点で、私たちの利害は一致しているわ。

「その前に、お会計を済ませてもよろしくて?」

「もちろんよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る