第19話 アホ淫魔、思わぬ再会!#7

 目が覚めて視界に入るのは、毎朝見ている自室の天井だ。カーテンの隙間から朝日が差し込み、俺は目を細める。

 しかし……何か変だな。いつもより天井の位置が高い気がする。それに布団が硬い。

「すぅ……」

 視線を下げていくと、布団を巻き込んだルフィーナが、俺に抱きついて寝ていた。

 

 あの後、ルフィーナは頑として動かなかったので、眠かったこともあって結局そのまま一緒に寝た。

 ここは床の上。どうやら俺は、こいつの抱き枕にされ、一緒にベッドから落ちたようだ。

「寝相悪すぎだろ、こいつ……」

 一緒に寝るのはダメだな。


「んん……」

 身じろぎしたルフィーナが、ゆっくりと目を開く。

「……おはよう、キョーヤ」

「お、おう。おはよう」

 無言で目を閉じ、唇を近づけてくるルフィーナ。

「な、何だよ!」

「おはようのキスよ」

「何で?」

「恋人同士ならやるって聞いたわ」

「いつ俺とお前が恋人になった?」

「昨日の夜よ」

 どうやら俺の知らない世界線があったらしい。

「俺は昨日、お前がクソ舐めた結婚相手の条件をほざいていたことしか覚えていないんだが?」

「そのあと滅茶苦茶セックスした」

「してねぇ!」

「私もう、お腹に赤ちゃんがいるのに」

「早すぎだろ! 絶対俺の子じゃねぇ!」

「男の子なら責任とってよ! 家族は俺が養うって昨日宣言してたじゃない!」

「お前、そういう都合のいいとこは覚えてんだな!」

「……あなたのチ○ポ、大きくなってるわよ」

 流れが悪いと踏んだのか、俺のスウェットに手をかけるルフィーナ。

「反論できないからって実力行使に出るな!」

「私はばっちり濡れているから、いつでもオッケーよ!」

「俺がオッケーじゃねぇんだよ! いいから早く離れて飯作ってくれ」

「はい、ご主人さま」

 ルフィーナは仕方ないというふうに起き上がり、部屋を出ていった。


「朝から疲れた……」

 教室に着くなり机に突っ伏す。

「おいおい、抜くのもほどほどにしとけよ?」

 前の席から飛んできた発言はスルー。

「それとも、もう姫城と――」

「バカか!」

 江口を制し、慌てて振り返るが、彼女は他の女子と話していた。よし、聞かれてないな。

「それより、お前のほうはどうなんだよ?」

 この野郎は最近、特別補習の名目でクレア先生と放課後の教室で二人きりというクソ羨ましい体験をしている。こいつこそ裁判にかけられるべきじゃないか?

「もうとっくに裁かれたよ。部活で女の話題が出るたびに、みんな俺に嫌味や皮肉を言ってくるんだ……」

 それは……ちょっと同情する。だが許さん。

「クソ、俺だって補習じゃなきゃ泣いて喜んださ。でも、めちゃくちゃ厳しいんだぜ? ありゃ地獄だ、地獄」


「あら、なら今日は天国に行かせてあげましょうか?」

 いつの間にかクレア先生が江口の目の前にいた。

「あっ、いえっ、これは――」

 慌てる江口に、クレア先生は面白そうに笑う。

「冗談よ。実力はちゃんとついてきているから、中間テストではいい点が取れるはずよ」

「は、はい!」

 クレア先生が教壇に立ち、ホームルームが始まる。

 江口もなんだかんだ言って楽しんでそうだな。やっぱり許せん。

「京也さん」

 後ろの玲緒奈が肩を叩いてきた。

「森の件、急で申し訳ないのですが、本日の放課後でもよろしくて?」

「もちろん。悪いな」

「いえ、平気ですわ。それから……」

 言いよどむ彼女。まさかさっきの話が聞かれて――。

「今週の土曜日、わたくしの家にいらっしゃいませんこと?」

「お前の家に?」

 それは……いいのか? 玲緒奈の家は行ったことこそないものの、きっと上品な感じなはずだ。江口の家に行く時と同じノリじゃダメだよな。スーツ――はないから、せめて制服で行ったほうがいいか?

「私服で構いませんわ! テストに向けて勉強会というものをしてみたいんですの」

 この前の遊びたいというのと同じか。

「もちろん。俺も今回は自信ないからな」

 5月のゴールデンウィークが明ければ中間テストが待っている。あと3週間くらいだ。この前居残りになった英語もだが、日本史もちょっとやばい。

 しかし、勉強会か。江口とやると必ずゲームに移行するんだよな。玲緒奈の家では気が散らないように頑張ろう。

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