第16話 アホ淫魔、思わぬ再会!#4

「今日は楽しかったですわ」

 夜の住宅街を2人きりで歩いていると、玲緒奈が不意に呟いた。

「わたくし、こんな体験ができるなんて思いもしませんでした。京也さん、貴方がいてくれたからこそですわ。ありがとうございます」

「気にすんな。付き合うって言ったのは俺なんだ」

「京也さんも楽しかったですの?」

「あぁ。クレーンゲーム相手にムキになってる玲緒奈は見てて面白かったぜ」

「まぁ、酷いですわ――くしゅんっ!」

 くしゃみして身震いする玲緒奈。今日は4月にしてはちょっと肌寒い。

「上着貸すぞ」

 ブレザーを脱ぐが、彼女は首を振った。

「お気遣い感謝しますわ。ですが寒いのはその……し、下の方ですわ」

 あっ。

「す、すまん」

 そりゃノーパンなら寒いわな……。


「うぅ……」

 苦しそうな声を出す玲緒奈。

「本当に大丈夫か?」

「はい……」

 それからしばらく歩くが、彼女の様子はますます変になっていく。よほど寒いのかスカートを押さえ、太腿をこすり合わせるように内股で歩いている。

 心配した俺がもう一度尋ねると。

「きょ、京也さん、あの……この辺りに、お、お手洗いはなくって?」

「と、トイレ?」

「ず、ずっと我慢していたんですの。ですがもうそろそろ限界ですわ……」

「マジかよ!」

 そう言われてもな。コンビニはないし……そういや確か、近くに公園があったはずだ。けど、あそこってトイレあったっけ?

 ギリギリの玲緒奈を連れて唯一の望みである公園に向かう。が、遊具だけでトイレは無かった。

「うぅ……もう駄目ですわ。淑女としてあるまじき、はしたない行為ですが、その茂みでいたします。申し訳ありませんが、どなたか来るかもしれませんから見ていてくださる?」

 ガサガサと茂みに入っていく玲緒奈。淑女はノーパンなんかしないけどな。

「だ、誰もいらっしゃらない?」

「あぁ、俺以外は誰もいねぇぞ」


 ちょろちょろちょろ――。人のいない、静かすぎる公園でそれは思いのほか耳に響いた。俺のすぐ後ろで玲緒奈が用を足してるのか……。

 い、いかん! 俺は何を考えてんだ! もっと他のことを――そう、ルフィーナをどうしばくか考えよう! あのアマ、絶対に何回もゲーセンで遊んでるぞ。帰ったら財政を確認しておこう。冗談抜きでピンチかもしれん。


「お、終わりましたわ」

「あ、あぁ」

「……音、聞こえていて?」

「い、いや! まったくしなかったぞ!」

 動揺して大げさに否定してしまった。まただよ、どうしてこう俺は誤魔化すのが下手なんだ。

「そう……」

 玲緒奈は赤く見える頬に手を当て、

「……見てくださってもよかったのに」

 呟いた。何だって?

「な、何でもありませんわ! さぁ――」

 ぽつり。鼻先に雫が落ちる。


「クソ、雨かよ。乗れ」

 今度は玲緒奈も頷いた。彼女を荷台に乗せ漕ぐが、雨足は見る見るうちに強くなっていく。

「一度雨宿りしよう。あと少しで俺の家だ」

「恐れ入ります。お世話になりますわ」

 俺の家に着いた時には、もう2人ともずぶ濡れだった。

「おかえりなさい、あなた」

 ルフィーナが出迎える。その姿は裸にエプロンを付けただけだ。

「お前――」

 いや待てよ。こいつはワンピースみたいなメイド服を着てたはずだ。それが隠れて裸に見えるだけか。いやびっくり――。

「お風呂にする? ご飯にする? それとも、わ・た・し?」

 最後に突き出された尻は真っ白。隠すものが何もない。

「またそれか! てか裸じゃねぇか!」

「あら、いいでしょう? 裸エプロンは一度やってみたかったの。その子は?」

「ひ、姫城玲緒奈と申します」

 ついていけないであろうこの展開に、玲緒奈は戸惑い気味に答えた。

「ルフィーナよ。キョーヤは私のご主人さまなの。もちろん性的な――」

 素早くルフィーナの口を塞ぐ。それ以上は言わせねぇぞ。

「誤解するなよ。あくまでメイドと主人、分かるだろ?」

「え、えぇ。承知しておりますわ」

 よし。俺はルフィーナの口から手を離し。

「お前にはゲーセンの件で話がある」

「わ、忘れてなかったのね……」

 困惑する玲緒奈をとりあえず風呂に入れ、俺も身体を拭いて着替えた。


「おまたせ」

「座れ」

 椅子を引くルフィーナを制し、床を示す。

「床だ。正座しろ」

「キョーヤ、冗談よね?」

「せ・い・ざ・し・ろ」

「はい」

 裸エプロンのルフィーナがちょこんと正座する。背筋を伸ばし、指先までそろった完璧な正座に、こいつもお嬢様の端くれなのだと再認識させられる。

「お前、いつから無駄遣いしてたんだ?」

「お、怒らない?」

「答え次第だな。嘘をついたら即退去だ」

「……2週間前からです」

 ほぼ最初からじゃねぇか。

「全部でいくら使った」

「い、1万円……」

「あ?」

「2万2千円使いました!」

「あのなぁ……」

 ダメだ。怒りやら呆れやらで言葉が出てこない。俺はどっかりとイスに腰を降ろす。説教は終わりと踏んだのか、立ち上がったルフィーナは夕飯の用意を始めた。

「キョーヤ。私、玲緒奈について気づいたことがあるのよ」

「初対面の相手をいきなり呼び捨てにするなよ……。それで何だ?」

 何気なく聞き返し、返ってきた答えに俺は硬直した。


「彼女、露出狂なのね」

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