第14話 アホ淫魔、思わぬ再会!#2

 翌日。

「キョーヤ、俺たちは友達だよな?」

「あぁ」

 半分ほど席が埋まった放課後の教室。江口の視線が俺を射抜く。

「なら俺が終わるまで待てよ!」

「お前なんか待ってたら日が沈むわ!」

 先日の英語の小テストの点が悪かった俺たちは英語担当であるクレア先生の怒りを買い、居残りで課題をやらされていた。点数の悪さに比例して課題も増えており、特に出来が悪かった江口は俺の2倍くらい量があった。

「こんなん絶対終わらねぇよ」

 お前の自業自得だろ。

「クレア先生は鬼だぜ、鬼」

 課題のプリントを進めながら江口が愚痴る。

「まぁ確かに」

 鬼だ、と言いかけたが、俺は危険を察知し口を閉ざす。

「……いや、そうでもないだろ」

「おいおい、どうした? 確かにあの人は美人だから、お前がそう言いたくなるのも分かるがな。性格はきつい――」

 振り返った江口が固まる。俺の隣には、にっこりと微笑むクレア先生が立っていた。

「せ、先生……。いやぁ、今日も綺麗ですねー」

 江口のとってつけたようなお世辞に、クレア先生は笑みを崩さぬまま答える。

「あら、ありがとう。江口君、あなたはできる子だし、課題が倍になっても大丈夫よね?」

「い、いやー、それはちょっとキツイっていうか――すいませんでしたぁーっ!」

 謝罪する江口の机に、プリントの山が無慈悲に積まれた。

「俺、終わったんで帰ります」

「お疲れさま。気をつけて帰ってね」

「キョーヤ待って! 俺を置いてかないで!」

 江口の悲鳴を背に、俺は教室を後にする。あいつは運が悪かったのだ。まかり間違えば俺まで課題を増やされていた。犠牲は少ないに越したことはない。

 階段で見知った背中を見つける。あの金髪ロールは――。

「玲緒奈」

 またデカい荷物を持った彼女が振り向いた。

「川――京也さん。こんな遅くまで何をしてましたの?」

「居残りで課題やってたんだよ。それ、運ぶよ。生徒会室だろ?」

「でも……」

「また落ちて見えちまったら大変だろ?」

「そうですわね」

「……今日は履いてるよな?」

「えぇ、もちろんですわ」

 玲緒奈は心外だと頬を膨らませる。さすがに見せろとは言えないので、ここは信じよう。

「お前に頼みがあるんだが」

「何ですの? わたくしに出来ることなら何でも言ってくださいまし!」

 頼りにされるのが嬉しいのか、笑顔で訊いてくる玲緒奈。

「今月ピンチでさ。食費がきついんだ。そこで――」

「お金の無心ですわね。500万でよろしくて?」

「違うわ! あとそんなに食費はかからないからな! ……そうじゃなくて、森があるだろ? あそこに山菜とか生えてないか?」

 ルフィーナのことをそのまま伝えても信じてもらえないだろう。今に限っては節約するに越したことはないし、あながち嘘でもない。

「ありますわ。何なら、小さな畑がありますから、そこで採れた野菜を差し上げますわ」

「いや、そこまでしなくても――」

 目的が違う。目的は食料より森に入ることだ。彼女の純粋な厚意に、胸がちくりと痛む。

「お近づきの印ですわ。それでも遠慮なさるなら、そうですわね……もう一度、わたくしのお願いを聞いてくださらない?」

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