第7話 アホ淫魔、メイドデビュー!#3

 まさか、我らが生徒会長が露出狂だったとは。あの時は心配が先行していたが、今になって驚きがやってきた。

「ただいま……」

「お帰りなさいませ、ご主人さま」

 ドアを閉め、振り返った俺の視界に入ったのは圧倒的な肌色。

「お前、なんつー格好してんだ」

 呆れて物も言えん。普段なら取り乱しているが、今の俺にその気力はない。

 ルフィーナは服は着ていた。だが、全裸の方がまだマシだった。

 目につくのは面積が少なすぎる黒い下着。水着かもしれんがどうでもいい。覆っているのは正真正銘乳首だけだが、それすらも数ミリずれたら見えちまう。短すぎるスカート、首のリボンと頭のカチューシャで、これがメイド服なのだと気づけた。

「どうキョーヤ? やっぱりサハラはすごいわね。すぐに届くんだもの!」

 ぼよんぼよん。でかい胸を揺らし、ルフィーナは嬉しそうに言った。

「お前、まさかその格好で外に出たんじゃねぇだろうな」

「そんなわけないでしょう! 私は変態じゃないわ!」

 そんな格好してる時点で十分変態だわ。

「キョーヤ、反応が薄いわね。こういうの好きじゃないの?」

「今日は色々あって、お前に突っ込む気分じゃないんだよ」

 色々と言っても、もう1人の変態である玲緒奈の件だ。

「キョーヤの突っ込みたい時に突っ込んでいいのよ。私はいつでも準備オッケーだから」

 はいはい。


「それで、もっと普通の服はないのかよ?」

「ちょっと待っててね」

 リビングに入ったルフィーナ。後を追い部屋に入ると、テーブルに大手通販サイトの箱が置いてあった。

「これは?」

 ルフィーナが箱から取り出したのは、フリルのついた白いエプロン。メイド服ならエプロンはいらないんじゃないか?

「バカね、裸エプロンよ」

 バカはお前だ。

「これはどう?」

 メイド風のビキニ。今着ている物よりかはよほどマシだが、際どいことに変わりはない。

「次」

 目の毒である彼女を視界に入れぬよう、最低限の確認で済ませる。

「じゃあこれ!」

 出てきたのはヒモ――と思ったら、黒い水着だった。胸と股間の部分がハート型になっている。

「水着なんてどこで着るんだ」

 今は4月だぞ。

「服として着るのよ」

 この調子じゃまともな服があるかも怪しいな。

「お前、他に何買ったんだ」

 箱の中を覗こうとして、ルフィーナに腕を掴まれた。

「女の子が買った物を漁るなんて最低よ!」

「じゃあまともな服を見せやがれ! どうせねぇんだろ!?」

「抵抗する気!? 私に腕力で勝とうなんて千年早いわよ!」

 俺を箱から引き離そうとするルフィーナ。こいつ相変わらず怪力だな……っ!

 右手でルフィーナの髪を掴み、思い切り下に引っ張ってやる。

「いたたたたた! 髪は駄目ぇ!」

「じゃあさっさと俺を放せ!」

「嫌よ! キョーヤこそ髪から手を離して! ほんとに抜けちゃう!」

「お前が先に放せ!」

「キョーヤが先よ! きゃあ!」

「うおっ!」


 バランスを崩し、俺たちは床に倒れ込む。頭全体を柔肌が包み、俺の視界は暗くなった。何だ、どこだここ!?

「キョーヤったら、やっとヤル気になってくれたのね」

 ルフィーナのスカートの中だ!

 顔を上げようとして、両側から太ももで挟まれる。ついでに頭を両手で押さえつけられ、マ○コが口に当たった。

「テメエ、さっさと放さねぇとぶっ殺すぞ!」

「ふふっ、口では強がり言っても、こっちは正直じゃ……届かないわね。キョーヤ、ズボンのチャック下ろしてチ○ポ見せてくれる?」

「誰が見せるか!」

「あぁん、キョーヤ鼻息荒いわぁ」

 発情しだしのか拘束がさらにきつくなる。息が苦しくなってきた。

 脱出せねばと両手をばたつかせる。その手を取ったルフィーナは、何故か俺に柔らかい物を掴ませた。

「おっぱいはここよ」

 そんなモン求めてねぇ! クソ、どうにかして脱出しねぇとマジで死ぬぞ!

 女の股に挟まれて窒息死なんて嫌すぎる! ルフィーナの肌伝いに髪の毛を掴み、再度引っ張る!

「痛い痛い痛い!」


 拘束が緩んだ隙に脱出! すーはーすーはー、新鮮な空気を取り入れる。

「だから髪は引っ張っちゃ駄目! すごく痛いんだからね!」

 涙目で頭を押さえるルフィーナを無視し、俺はひっくり返った箱の中身を検めた。隠すべき部分に穴が空いた役立たずの下着、乳丸出しのボンデージ。こいつロクなモン買ってねぇな。

「人間の服は窮屈なのよ」

 お前らが開放的すぎるんだ。

「俺も着替えてくる。箱片付けて着替えろ」

「どれに?」

「一番最初に着てた布があっただろ」

「布じゃないわよ! あれがサキュバスの正装なの!」

 あれが正装かよ! 確かにセックスが生業のサキュバスならあり得なくはないが……。いや、今はどうでもいい。

「その正装とやらでいいから」

 これよりマシだ。

「ないわ」

 は?

「洗ったもの」

 何だと?

「当たり前じゃない。臭ってたし、私も臭いのは嫌だもの」


 これは計算外。俺は床に落ちている、一番まともに見えるメイドビキ二を差し出し

た。

「これでいい」

「分かったわよ、じゃあ着替えるわ」

「おう」

 部屋を出ようとするが、背中にルフィーナの視線が突き刺さる。

「何だよ」

「私、着替えるわ」

「聞いたよ。俺も着替えてくる」

 そう答えても、ルフィーナは不満そうだ。

「私、これから着替えるのよ?」

「だから何だよ!」

 面倒くさくなって真意を尋ねた俺に、彼女は何故か怒りだした。

「もう! 女の子が目の前で着替えるのに、反応が薄いわよ! もっと動揺しなさい!」

 一気に白けた。

「……それだけか?」

「それだけよ!」

「興味ねぇよ」

 喚くルフィーナに構わず、俺は二階へ上がった。


 部屋に入ると、すぐに違和感に気づいた。

 全体的にきれいになっている。隅の埃、窓の汚れや壁のシミまで取り除かれている。

 物自体が少ない故、掃除も楽な自室だがそれでも面倒な箇所はある。机やタンスの裏とかな。

 しかし、そういった場所も含めて、俺の部屋は掃除されていた。

「これ、あいつがやったのか?」

 それ以外に誰がいる? 自問自答する俺は、普段の彼女とのギャップに驚いていた。

 そのまま自室の真ん中で立ち尽くしていると、開いたままの扉からルフィーナが現れた。

「どうキョーヤ、かわいいでしょ?」

 着替えて来たルフィーナが、くるりと一回転。スカートとも言えぬ短いヒラヒラが浮き上がった。その下は黒いボトムなので、映像化されても謎の光を入れる必要はない。


「この部屋、お前が掃除したんだよな?」

「そうよ。あなたの部屋、物が少なかったから掃除しやすかったわ。あと、エロ本も補充しておいたわよ。ちゃんとベッドの下にあるからね!」

 ベッドの下を覗き込む。一冊の薄い本とメモが置いてあった。

「今夜はこれでオ○ニーしてね(はーと)。……なんだこれ」

「そのままの意味よ。もちろん、私をご所望ならお手伝いさせていただくわ」

「いらねぇよ。てか何でこの本、湿気ってんだ?」

 濡れているというほどではないが、ページが少し水分を吸っている。

「それはね、私が橋の下に住んでいた時に拾ってきた物だからよ」

「中学生かお前は!」

 本をルフィーナに投げつける。そんなもん人に渡してんじゃねぇよ!

「せっかく拾ったんだから1回くらいは抜いてよ!」

 余計なお世話だ。

「何の用だ」

「ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

「飯」

「ご飯は私よ」

 二択じゃねぇか。

「普通の飯を食わせろ」

「女体盛りね、任せて!」

 ……もう突っ込まんぞ。

 いい加減疲れていた俺は無言でハサミを取り、ルフィーナに近づく。

「きょ、キョーヤ? 何する気? いやぁ! 髪掴まないで! ごめんなさい! 普通に作るから! だから切らないでぇ!」

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